コラム

軽減税率の何が問題か

2015年12月16日(水)13時47分

 これが、大混乱、暴落という様相を呈するか、じわじわと起きるかは、世界金融市場の情勢次第だが、いずれにせよ、激しいスパイラル悪循環か、静かな悪循環が起こる。この負のスパイラルを断ち切るには、円安をおさえる必要があり、さらに、それを金融を引き締めずに行うことが必要となり、歳出削減、増税が必須となろう。

 そのときに、軽減税率が入っていると、次に12%への消費税率引き上げの時に、増収効果が小さくなる。景気が悪い中での引き上げだから、有権者は抵抗するだろう。その際に、一度軽減税率を入れてしまっているから、安易に、これを再度利用することになろう。つまり、8%据え置きは織り込み済みで、12%への引き上げの痛税感緩和策としては、据え置きでは弱い。8%を6%または5%へ引き下げることになるだろう。一旦引き下げが可能と分かれば、次はゼロ税率の可能性も出てくる。したがって、一旦、安易な道に流れると、それは加速し、永遠に失われるものが出てくるのである。

消費税率は間もなく15%に

 それは増税による税収である。消費税を上げても、効果はフルには発揮できず、漏れが大きくなる。

 こうなると税収を上げるためには、税率を大きく上げる必要がある。12%では到底足りない。15%がすぐやってくる。

 そうなったとき、15%標準税率、軽減税率、例えば5%というのは、かなりダメージが大きい。2%の軽減で1兆円の税収減少なので、10%で5兆円、様々なロスを考えれば(免税点の問題など)12%一律に近い税収になるだろう。

 経済にとって、15%標準税率、食品は5%に軽減というのと、12%一律消費税というのとどちらが購買意欲をそそるか。あるいは、もっと食品にゼロ税率などとなった場合には、15%標準税率で食品はゼロ税率というのと、10%標準税率一本、というのとどちらがよいか。

 さらに、消費税を最終的に納税するのは企業である。食品関連の産業とそれ以外の産業で見れば、景気敏感度は当然、食品関連以外の方が大きい。だから、景気が悪くなったときに、高い消費税率、あるいは引き上げの影響が非常に大きくなる。だから景気にはマイナスだし、景気を配慮すれば、消費税率引き上げは本当に難しくなる。

 財務省のために消費税を上げるのではなく、経済を立て直すために消費税を上げなくてはならないのだから、消費税が上げられない、というのは経済に大きなダメージを与えるのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ氏政治集会の舞台裏、聴衆はなぜ熱狂す

ビジネス

円全面安が加速、対米ドル以外も10数年ぶりの安値更

ビジネス

日銀、政策金利の据え置き決定 国債買入も3月会合の

ビジネス

特にコメントできることない=日銀会合後の円安進行で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story