コラム

ポーランド墜落事故の怪しい展開

2010年05月21日(金)11時00分

 ポーランドのレフ・カチンスキ大統領ら90人以上が死亡した4月の飛行機事故で、本誌は「墜落事故の原因は大統領本人?」との記事を掲載した。カチンスキは以前から、飛行機で移動する際に操縦士に無理な命令をして、不必要に危険な飛行をさせることがあった、というものだ。事故当日は悪天候で視界が悪く、航空管制官が繰り返し警告していたにもかかわらず着陸を強行していたため、この事故もカチンスキが無謀な圧力をかけたのでは? との憶測が広がった。

 そんな見解を裏付けそうな新事実が明らかになり、事故調査の行方は怪しい展開になりつつある。事故を調査しているロシア国際航空委員会の5月19日の発表によると、事故当時コックピットのドアが開いていて、操縦室内に乗員以外の複数の人物が立ち入っていたことが分かったという。録音された音声からそのうちの1人の身元は判明しているが、とりあえずは大統領本人ではないらしい。残る複数の人物が誰なのか解明するには、ポーランド側からのさらなる情報提供が必要だという。

 ポーランドは当初、カチンスキらが無謀な命令を下したことが事故につながったという説を否定し続けていたが、そうも言ってはいられないようだ。これまでの調査によれば、飛行機のエンジンは墜落まで正常に作動していて、テロや爆発などの可能性はなく、前述の通り、航空管制官は着陸を中止するよう勧告していた。となると、残る事故原因は限られてくる。

 レフ・カチンスキの死亡に伴い6月20日に前倒しで行われる大統領選で、双子の兄ヤロスワフ・カチンスキ前首相がすでに出馬を表明している。弟の悲劇的な死を背負って票を獲得することを狙っているようだが、果たしてこんな展開で「同情票」は集まるのだろうか。

――編集部・高木由美子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃

ビジネス

中国製リチウム電池需要、来年初めに失速へ 乗用車協
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story