コラム

「南アフリカで大規模テロの恐れ」とアメリカが発表、経緯や関与組織は? 知っておきたい4つの知識

2022年11月02日(水)17時55分
スペインのサンチェス首相とラマポーザ大統領

スペインのサンチェス首相と記者会見に臨むラマポーザ大統領(2022年10月27日) Phill Magakoe/Pool via REUTERS

<南アフリカのテロ警報をアメリカが直接発信したことは適切だったのか?>

アメリカは「南アフリカで大規模なテロ計画がある」と発表した。その背景には何があるのか。4点に絞ってみていこう。

1. アメリカは何を警告したか

南アフリカにあるアメリカ大使館は10月26日、「大規模なテロ計画があるという情報を入手した」と発表し、現地に暮らすアメリカ市民に警戒を呼びかけた。

それによると、最大都市ヨハネスブルグ近郊のサントン地区が、10月29日前後に狙われているとして、アメリカ大使館員に29日、30日にはこの地域の人混みを避けるよう伝えたという。

サントンは外国企業のオフィスや外国人向けのホテル、ショッピングモールが立ち並ぶ地区で、警備員も各所に配置されている。

もともとヨハネスブルグは治安の悪さで知られる街だ。サントンはヨハネスに外国人が安心して滞在できる区域として整備された区域で、筆者も調査のため南ア滞在中にしばしば利用した経験がある。

それだけにサントンは外国メディアも立ち入りやすく、「目立ってなんぼ」のテロリストからすれば格好の標的という言い方もできる。

2. テロリストとは誰か

在南アフリカ・アメリカ大使館は「どの勢力によるものか」については何も触れていない。

南アで大規模テロを起こしかねない勢力としては、まずイスラーム過激派があげられる。

念のために確認すれば、アフリカ大陸は南部にいくほどムスリムが少なく、南アの場合は人口の1.7%に過ぎない。

それでも2016年、南ア政府は「イスラーム国(IS)」が南アを物資や人の移動の拠点にしていると報告した。

イスラーム過激派はアフリカ大陸南部へ勢力を徐々に広げている。2017年、南アの隣国モザンビークでは「イスラーム国(IS)」に忠誠を誓うアフル・スンナ・ワル・ジャマア(ASWJ)が発足し、67万人以上が避難民となるほどのテロと戦闘が続いている(国際的にはほとんど注目されないが)。

周辺国はこうした情勢の解決に協力しているが、それはイスラーム過激派にとって「敵対行動」と映る。そのため、南ア諜報機関はISを差し迫った脅威とみなし、実際にISは今年7月、南アでの活動拡大を予告していた。

3. 警戒すべきはイスラーム過激派だけか

しかし、南アフリカでテロを起こす可能性があるのはイスラーム過激派だけはなく、白人右翼という可能性も無視できない。

この地には18世紀以来、多くのヨーロッパ系人が定着してきた。それは現在の白人と黒人の所得格差の元凶でもある。

そのため近年では黒人の一部から「白人の財産没収」を求める意見すら飛び出しているが、それはかえって白人の拒否反応を強め、差別主義的なグループも台頭してきている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ

ワールド

コンゴ、エボラ出血熱死者31人に 3年ぶり流行で

ワールド

小泉農相、20日に総裁選出馬会見 午前10時半から

ワールド

南ア中銀、政策金利据え置き 過去の利下げの影響見極
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story