コラム

反政府軍の中核、HTS指導者が言う「全シリア人」には誰が含まれている? アサド政権崩壊を単純に祝福できない理由

2024年12月10日(火)21時40分
アブー・モハメド・アル・ジュラニ

ウマイヤ・モスクで勝利宣言をしたHTS指導者アブー・モハメド・アル・ジュラニ(12月8日、ダマスカス) Balkis Press/ABACA via Reuters Connect

<アサド政権崩壊に路上から歓喜の声があがり、欧米各国もこれを歓迎。しかし、反政府軍の中核を占めるタハリール・アル・シャーム機構(HTS)にはマイノリティや女性に対する迫害・攻撃の前科がある。他にも、国内には分裂を加速させかねない大きな問題が>


・アメリカ政府はアサド政権崩壊を歓迎する一方、シリアにおける政治空白がISなどの活性化を促しかねないことを警戒している。

・その一方で、欧米各国の政府はあまり触れないが、ダマスカスを陥落させた反政府軍そのものもシリアの不安定要因になり得る。

・反政府軍の中核を占めるイスラーム主義者はマイノリティや女性に対する迫害・攻撃の前科があり、欧米からもテロ組織とみなされているからである。


歓喜の一方にあるリスクと不安定

シリアでのアサド政権崩壊に、欧米各国の政府は概ね歓迎した。

例えばシリアを「テロ支援国家」に指定してきたアメリカの場合、ジョー・バイデン大統領は「長く苦しんできたシリアの人々がよりよい将来を築くための歴史的機会」と評価した。

実際、アサド政権のもとでは人権侵害が横行していた。そのため、反政府軍のダマスカス制圧後、収容されていた数多くの政治犯が解放され、各地で歓喜の声があがったことは不思議ではない。

これに加えて、アサド政権がロシア、イラン、ヒズボラなど欧米と対立する勢力によって支えられていたことが、欧米各国の歓迎ムードの影にあることも間違いない。

ただし、懸念材料もある。バイデンはアサド政権崩壊を歓迎しながらも、「同時にリスクと不安定も残る」と強調した。

シリア東部にはイスラーム国(IS)の占領地がある。

そのため、バイデンがアサド政権崩壊後の政治空白でISが活性化することを警戒するのは不思議でない。

アメリカはこれまで(アサド政権の承認を得ないまま)シリア国内に軍事拠点を構え、ISに空爆などを行ってきた。

バイデンが触れなかったリスク

ただし、リスクはISだけではない。ダマスカスを制圧した反政府軍そのものもシリアにとってのリスクになりかねないといえる。

反政府軍の中核はタハリール・アル・シャーム機構(HTS)が占める。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が弾道ミサイル、日本のEEZ外に落下したとみ

ワールド

米主要空港で最大10%減便へ 政府閉鎖長期化で 数

ワールド

高市政権にふさわしい諮問会議議員、首相と人選=城内

ワールド

トランプ氏「イランが制裁解除を打診」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story