コラム

ガソリン高騰をさらに煽るウクライナ危機──プーチンの二重の賭け

2022年02月07日(月)14時30分
プーチン大統領

危機による原油価格高騰までロシア政府の計算内だったかは不透明(写真は2月3日撮影、モスクワ・クレムリンで会談に出席するプーチン大統領) Sputnik/Aleksey Nikolskyi/Kremlin via REUTERS


・ガソリン高騰にはいくつかの背景があるが、世界屈指の天然ガス輸出国ロシアが関わるウクライナ危機も深く関係している。

・戦闘が実際に発生しなくても、「戦争があるかも」という観測そのものがエネルギー市場に資金を引き寄せる呼び水となっている。

・原油高はロシアの景気振興になるのと同時に、さらなる高騰のリスクがアメリカへの圧力になっているが、そこにはロシア自身にとってのリスクもある。

ウクライナ危機は安全保障上のリスクであるだけでなく、すでに高騰しているガソリン価格をさらに押し上げかねない。ロシアが世界第二の天然ガス輸出国だからだ。

ヨーロッパ発の石油危機になるか

世界全体の原油価格の目安となるWTI原油先物は2月4日、7年ぶりに90ドルを突破した。原油の高騰は、今後さらに進む可能性が大きい。

エネルギー関連テクノロジー企業ガスバディは昨年暮れの段階ですでに、ガソリン価格が2022年中に2021年よりさらに値上がりする懸念を示していた。その大きな要因として指摘されるのがウクライナ危機だ。

世界全体の原油輸出に占めるロシアの割合は12.5%(2019)で、サウジアラビア(14.7%)に次ぐ第2位である。

そのため、ロシアがウクライナをめぐって欧米と対立する状況が長期化すれば、主にヨーロッパ向け輸出にブレーキがかかりかねない。この警戒から、例えば東欧ハンガリーのオルバン首相は1月31日、クレムリンでプーチン大統領と会談し、地域の安定やエネルギーの安定供給について協議している。

とはいえ、影響はヨーロッパに止まらない。たとえロシアから原油を直接輸入していなくとも、ロシア産原油の供給が滞れば、グローバル市場での需給も影響を受ける。

1970年代の二度の石油危機は第四次中東戦争(1973)、イラン・イスラーム革命(1979)といった中東の変動をきっかけにしたが、今度はヨーロッパがその震源地になりかねない。

戦闘に至らなければ問題ないか

注意すべきは、ウクライナで戦闘が実際に発生するかしないかは、あまり関係ないということだ。

もともとエネルギー価格は流動的な資金によって左右される傾向がある。世界的な好景気に沸いていた2008年(その直後にリーマンショックがやってきた)、原油価格は1バレル160ドル以上という歴史的な高値をつけたが、この前後に世界最大の原油輸出国サウジアラビアは再三「原油の供給量は十分」と表明していた。

つまり、世界的なカネ余りのもとで資金がエネルギー市場に過剰に流入した結果、価格が実態としての需要を上回る水準になったと、サウジ政府は投機的資金への警戒を促していたのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平合意「極めて近い」 詳細

ワールド

中国の米国産大豆の購入は「予定通り」─米財務長官=

ワールド

ハセットNEC委員長、次期FRB議長の最有力候補に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story