コラム

中国当局がひた隠すスラム街の存在

2018年12月10日(月)20時43分

今年の8月、私は偶然にスラム街を一つ見つけた。

それは去年つぶされた新建村と同じく北京市の中心から20キロぐらい離れたところにある。具体的にどこにあるのかは、新建村のこともあるので伏せておきたい。

出稼ぎ労働者たちが集住している地域は東西が1.3キロ、南北が1.3キロぐらいあるが、やや複雑な形をしているので、面積は1.34平方キロメートルである。そこは北京市郊外の農村地帯で、もともとは6つの村と3つの住宅団地が混在する場所であった。その間を埋めるように出稼ぎ労働者が住む2階建てぐらいの簡易宿泊所がぎっしりと建ち並んでいる。

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簡易宿泊所のなかを覗いてみた(筆者撮影)

つぶされた新建村は面積が1.1平方キロメートルだった。そこに4万人が住んでいたという情報が正しければ、私が発見したスラム街の人口は5万人近くに及ぶであろう。

その至るところに「貸間あります」という張り紙や看板を目にする。家賃は月1万円ぐらいで、インターネット設備を備えたアパートもあるようだ。この街には中国各地の風味の食堂、商店、医院、理髪店、携帯ショップなど、基本的な商業やサービス業が備わっている。人々が集まってくると必ず誰かが食堂や商店を経営して儲けようとするたくましさは、中国のスラム街が胸を張っていいところかもしれない。

私がそのスラム街に滞在したのはほんの2時間ほどなので本当のところは不明だが、治安が悪いようには思えなかった。

山谷との大きな違いは

街では求人広告もかなり目にした。短期の警備員の仕事は食事と宿舎が会社持ちで日給170元(2800円)。但し犯罪歴がないことが条件だという。近くの工場団地での工場の仕事はいろいろあって、だいたい1日8時間労働、週休2日で月4500元(7万3000円)ぐらいが相場のようだった。

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街に張り出された求人広告。上は電子工場、下は警備員の求人(筆者撮影)

こうしてみると、ここはスラム街というよりも低賃金の出稼ぎ労働者が集まる簡易宿泊所街で、東京の山谷や大阪の釜ヶ崎の同類のようにも見えてくる。だが、ここには都市の公共サービスが決定的に欠けており、その点は山谷や釜ヶ崎と大きく異なる。

下水道が不十分にしか整備されていないことは、街のところどころに「ここに尿を捨てたら罰金」とか「ここに大便を捨てる者には死あれ」という張り紙があることから想像できた。(気分が悪くなるのが怖かったので、この問題については想像しただけで、調査はしておりません。次回行く機会があれば、鼻をつまんでもっとそのあたりをきちんと見てきます。)

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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