コラム

「自動運転があらゆる移動課題を解決する」という期待への違和感

2021年04月14日(水)19時40分
高速道路を走る自動運転車

ホンダ「レジェンド」の自動運転は高速道路上で渋滞時に機能する(写真はイメージです) IGphotography-iStock

<車両の高度化にばかり注目が集まる自動運転だが、レベル4や5を実用化、利活用するには他にも必要な準備がたくさんある>

ホンダが自動運転レベル3の車両「LEGEND(レジェンド)」を2021年3月5日に発売開始した。世界に先駆けた取り組みで、日本のチャレンジ精神を示すことができたと称賛されている。

しかし自動運転のニュースではレベル1から5が一括りで「自動運転」と報道され、映像のインパクトが強いため無人の自動運転がすぐに実現するのではと思い込む人も多い。

ちょうど年度末の3月には、各地の自治体主催で地域住民や企業向けシンポジウムが立て続けに行われた。主にパネリストとして招待された筆者は、自動運転の実用化についてのさまざま意見を聞くことができた。

自動運転に対する期待の声は次の通りである。


・高齢者や障がい者など自動車を自分で運転できない人の移動手段として

・中山間や過疎地域など公共交通が利用できない地域での移動手段として

・バス、タクシー、トラックの乗務員不足の解消

・いつでもどこでも行きたいところへ連れて行ってくれるどこでもドアのような移動手段として

このように数年以内に全ての移動課題が解決されることへの期待度は非常に高い。

バスやタクシーに近い業態に

果たして自動運転は今すぐ移動課題を解決してくれる万能薬になるのだろうか。

筆者はこれまで利活用の視点、つまり自動車の車両そのものの進化のみならず、車両を使ってサービスを提供するバス、タクシー、トラック業界や次世代モビリティサービスを長く取材してきた。これまでは自動車の車両そのものに注目が集まり、利活用を追いかける人は珍しかったようで、最近ではCASE*1のCAS視点だとかMaaS視点で取材しているとも評されている。

一定条件下ですべての運転操作を自動化する技術を搭載した自動運転レベル4や無条件ですべての運転操作を自動化するレベル5は、まさにバスやタクシーといった業態に近くなると言われている。そのため有難いことに自動運転に関する仕事をたくさん頂くようになった。

筆者も高齢者や障がい者の移動問題や深刻化するバス・タクシー・トラックの乗務員不足の解消、事故の削減を実現する自動運転レベル4や5の実用化には大変期待している。寝ていてもどこへでも連れて行ってくれる自動運転車がはやく走ってほしいと率直に思う。

しかし公共交通やトラック業界を長く取材し、課題を肌で感じてきているため、実証実験をせずとも自動運転タクシーや自動運転バスで問題となる点が感覚的に分かる。

住民の足を確保するべくバスを走らせても利用者が少なく、ずいぶん前から公共交通は便数を減らし、運賃だけでは赤字のため多額の税金が投入されているのが実情だ。にもかかわらず、自動運転バスやタクシーになればすべてが解消されると信じている人が多いことに懸念を抱いている。

────────────────
*1 CASE:Connected(つながる)、Autonomous(自動化)、Shared and Service(シェアとサービス)、Electried(電動化)の略称。ドイツの自動車メーカー、ダイムラーが提唱

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story