コラム

経済成長は今後さらに難しくなる...その仕組みを紐解くカギ「自然資本」とは

2021年12月22日(水)18時38分
自然資本

SHAIITH/ISTOCK

<英ケンブリッジ大学名誉教授の報告書などで注目を集める「自然資本」という考え方は、経済理論を大きく変えることになりそうだ>

原油や食糧、鉱物資源などあらゆる1次産品の価格が高騰している。短期的にはコロナ危機からの景気回復期待が原因だが、世界経済の成長に伴う需要増大に対して、供給量に限界があるという構造的な問題も関係している。

これまでの社会は、「自然資本」を無制限に利用することを大前提としてきた。世界経済の驚異的な成長に伴って、こうした常識は通用しなくなりつつあり、経済学の分野でも、自然資本を重要資本と見なして理論を再構築する動きが活発になっている。2021年2月に公表された「ダスグプタ・レビュー」もその1つである。

この報告書は英財務省がケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ名誉教授に作成を依頼したもので、経済活動と自然の関わりについて分析したものである。標準的な経済学では自然資本(自然環境や天然資源など)は自由に利用できるものとして扱われており、その資産価値やコストは考慮されていない。

現実にはこれらの自然資本は有限であり、一定の投資を継続しないと枯渇してしまう。報告書では既存の経済学に自然資本の概念を加えることで、理論全体の見直しを試みている。

22年間で40%近くも減少

一般的な成長理論においては、経済活動によって生み出される生産物の産出量は、労働と資本の投入量で決定される。つまり資本と労働を適切に投入すれば経済は成長するという理屈である。企業は投入した資本と労働を使って財やサービスを生産するが、その過程で必要となる自然環境や天然資源は自由に使えることが前提で、維持すべきストックとは見なされていない。

報告書では資本と労働という従来の生産要素に、自然資本という新しい生産要素を加えることで成長理論を再定義した。自然資本を過剰に使った場合には資本蓄積が減少し、成長が阻害される。

報告書によると、1992~2014年の22年間で、生産設備や各種インフラなど一般的な資本ストック(1人当たり)は2倍に拡大したが、自然資本は40%近くも減少した。経済学的に解釈すれば、自然資本にタダ乗りして成長していたことになり、自然資本が枯渇すれば成長の維持も難しくなる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は6日続伸、日銀決定会合後の円安を好感

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    フラワームーン、みずがめ座η流星群、数々の惑星...2…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story