コラム

ジョージアはロシアに飲み込まれるのか

2024年06月15日(土)14時30分

「外国の代理人」法案は抗議デモが続くなか可決された IRAKLI GEDENIDZE―REUTERS

<ロシアとジョージアの関係は、いろいろなことがねじれていて一筋縄ではいかない>

カフカス地方のジョージア(グルジア)で、親ロシアの与党「ジョージアの夢」が、「外国の代理人」法案を採択。親EUの野党「統一国民運動」などが抗議している。

外国から資金を得ている政治団体は当局に届け「外国の代理人」を名乗れ、という趣旨のロビイスト規制法はアメリカにもある。だがロシアは同種の法律を反体制派に圧力をかけるために使っている。「ジョージアもそうだ。10月の総選挙で野党を弾圧する布石だ」というのが、野党の言い分だ。


「統一国民運動」の黒幕は元大統領のミハイル・サーカシビリ。NATO加盟を策して2008年8月、ロシア軍侵入を招き、その後国外に追い出された人物である。21年にジョージアに帰国して当局に拘束され、現在も収監されている。すわ、西側は、彼を復帰させ、この国がロシアにのみ込まれるのを止めようとするのか?

しかし事態はそれほど単純ではない。まず与党「ジョージアの夢」の黒幕、ビジナ・イワニシビリは、イデオロギーより権力と利権に忠実な男。1991年のソ連崩壊後、ジョージアでは内戦など混乱が続いたが、イワニシビリは10年頃、にわかに台頭。ジョージアのGDPの半分相当とも噂された資産で「ジョージアの夢」を立ち上げ、12年に議会多数を獲得すると、自ら首相に納まった(今は国外にいる)。

彼は当初ロシア寄りと目されていたのだが、08年に武力侵攻したロシアにアブハジア、南オセチア両地方を押さえられ、国民の反ロ機運が支配的という状況下、EUと連合協定を結び、アメリカと共同軍事演習を繰り返すなど、親西側の姿勢を取った。

ロシアとも西側とも関係が必要

しかしジョージアは、ロシアと政治・経済・文化的に深く結び付いている。ジョージア出身のスターリンは言うに及ばず、モスクワで活躍した人物は多い。ロシア在住のジョージア人の仕送りは多く、ワインなどの特産物もロシアが主な輸出先だった。

「ジョージアの夢」は20年頃、ロシアとの関係改善を模索し始める。22年、ウクライナ戦争が始まり、西側がロシアを制裁すると、西側製品はジョージア経由でロシアに輸出されるようになった。同年9月にプーチンが部分動員令を発すると、100万を超えるロシア人青年が兵役逃れでジョージアに移動。20億ドル以上の資金をもたらした。ジョージア政府はロシアとの直行便再開を策し、西側にねじ込まれる騒ぎとなる。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

旧統一教会の韓鶴子総裁を聴取、前大統領巡る不正疑惑

ワールド

香港長官が政策演説、経済と生活の向上に注力 金取引

ワールド

習氏のAPEC出席を協議へ、訪中する韓国外相が明か

ビジネス

英GSK、対米300億ドル投資を計画 医薬品関税に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story