コラム

中世の歴史が物語る中国の先行き

2023年04月15日(土)16時30分

宋の時代の都市の繁栄が描かれた『清明上河図』 PICTURES FROM HISTORY/GETTY IMAGES

<中世までの中国は西欧をしのぐ経済発展を遂げていたが、そこから産業革命が生まれることはなかった>

中国がどこまで伸びるか、それは今後の世界の姿、日本の政策を大きく左右する。

歴史上、中国の成長が停滞、あるいは腰折れしたことは何度もある。その多くは、戦乱や異民族支配によるものだ。その中で、中世の宋朝から明・清朝にかけての繁栄から停滞への道、それがこれからの中国の行方を暗示するものとなっている。

北京の故宮博物院に、『清明上河図』という北宋の首都・開封の情景を描いた図が陳列されている。西暦1000年頃、イタリアはともかくアルプス以北の西欧はまだ中世にやっと入ろうかという原初の時代。この絵図からは、宋が後の西欧中世商業都市に匹敵、いやそれをはるかに上回る規模と水準の経済を築いていたことが分かる。

『清明上河図』では妓楼(ぎろう)、料理屋、茶屋などが軒を並べている。宋の時代には羅針盤、紙、火薬だけでなく、機械時計、コークスを用いての製鉄技術も開発されていた。明の時代には絹織物、陶磁器を柱に、西欧でいえば「マニュファクチャー制」のような中小規模の工房が林立した。国家専売の塩の流通を全国で扱った商人は大規模化し、清朝時代にかけて金融業でも財を成すようになる。この頃まで、中国の経済発展は、西欧を総じて数百年、先駆けていたのだ。

ところが、16世紀までには自然科学、技術面での中国の後れは明白になる。16世紀末から中国に居住した宣教師マテオ・リッチは、「ヨーロッパの(進んだ)文明水準を中国人に印象付けることができる実用具」を送ってくれるよう、本国イタリアに依頼している。明時代の技術を集大成した書物『天工開物』を見たが、そこでの製鉄技術は小規模で後進的なものだし、その他の技術も中世経済の延長という程度だった。

共産主義の大いなる自己矛盾

中世の中国には、産業革命につながっても不思議でない資力、技術の集積があった。市場も大きかった。それでもスパイラル状の成長は生まれなかった。機械を用いての大量生産は始まらなかったのだ。

では、イギリスはどうして産業革命を実現できたのか。発展の途上、イギリスはいくつかの原罪を犯している。17世紀からのアイルランド収奪は、200年以上続いた。同じく17世紀にはアフリカから数百万の黒人奴隷を連れ出してアメリカ南部での綿花・タバコ栽培、そしてカリブ海諸島でのサトウキビ栽培に当たらせ、それを本国で加工して輸出。大きな富を築いた。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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