コラム

韓国「グローバル中枢国家」外交の中身は「まだ検討中」

2023年01月05日(木)12時25分
尹錫悦

2023年の尹は外交でどんな手を打つのか DAEWOUNG KIMーREUTERS

<アメリカの主要な同盟国の1つであり、世界第10位の経済力と軍事力の韓国。その自信とは裏腹に目指す国家像は今も不明瞭。それはかつて日本も経験した、自ら乗り越えるべき問題>

「韓国での大統領の交代は、例えれば小さな王朝交代だ」

筆者はかつて韓国の政権交代について、このような表現を用いたことがある。韓国では新たな政権が成立する際に、隋から唐へと中国の王朝が、高麗から朝鮮へと朝鮮半島の王朝が変わったときのように、先立つ政治勢力の業績の多くが否定され、全てが新たな状態から始められる。

もちろん、それは内政だけではなく外交においても同じだ。韓国の前政権との約束が突然なかったことにされるのは、日韓関係だけではない。

この「小さな王朝交代」には、これに伴って行われる「儀式」も存在する。内政や外交に関わる新政権のキャッチフレーズの発表と流布である。新政権は先立つ政権との違いを明らかにするために、自らの政策を分かりやすい言葉で表現する。それがおのおのの政権のキャッチフレーズになる。

とはいえ、韓国歴代政権のキャッチフレーズがその言葉としての分かりやすさと対照的に、どこまで内容があったのか必ずしも定かでない。朴槿恵(パク・クネ)政権は「創造経済」という経済政策のキャッチフレーズを掲げた。クリエーティビティーを重視するメッセージなのは分かったが、具体的な政策としてどう表れるのか誰にも分からなかった。

そして今年の5月に成立した尹錫悦(ユン・ソギョル)政権は、外交政策で「グローバル中枢国家」をキャッチフレーズとして掲げている。

背後には国力を向上させ、新型コロナ禍も相対的に小さなダメージで切り抜けた今の韓国の自信が表れている。今こそ韓国外交も朝鮮半島周辺の狭い地域を離れ、グローバルに展開する世界の「中枢国家」の1つとしての役割を果たすべきだというのである。

「具体的な中身はまだ検討中」

ロシアや中国をめぐる状況が不安定さを増すなか、アメリカの主要な同盟国の1つとして、世界第10位の経済規模と軍事費を持つ韓国が積極的な役割を果たすのは、われわれにとっても歓迎すべきことだ。

それが、同じくアメリカとの同盟関係にある日本との関係改善につながるなら悪いはずがない。ロシアとウクライナの戦争が長期化するなか、韓国はポーランドへの大量の武器輸出の契約を取り付けるなど、活発な外交で注目すべき存在にもなっている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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