コラム

中国政治の暑い夏と対日外交

2016年08月18日(木)17時00分

 こうした認識にもとづけば、この夏から来年の秋までの1年あまりの時間、中国の政治指導者の主要な関心は内政に傾き、中国の対外行動は内政に強く引きずられることになる。


権力をどう継承するか

 7月26日の報道によれば、中央政治局会議は、今秋の中央委員会総会の議題として政治権力の継承のありかたをめぐる問題をセットした。

「政治権力の継承」。これは一貫して中国政治の中心的な課題である。1980年代からはじまる改革開放路線下の中国政治には、後継者の選定を含めた人事制度(政治エリート同士の関係のあり方)をめぐって、一つのコンセンサスがあった。「文化大革命の再演を防ぐ」である。

 中国共産党は、この文化大革命を「指導者が誤って発動し、反党集団に利用され、党と国家各民族に大きな災難である内乱」と評価している。この「指導者」が毛沢東であり、「反党集団」が林彪や四人組だ。

 この文化大革命の再演を防ぐため、1980年代以来の中国政治は、個人の指導者への権力の過度の集中を如何に防ぐか、その制度化を中心的な課題と位置付けてきた。

【参考記事】歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

 たとえば中国共産党は、国家主席や国務院総理や副総理、全国人民代表大会常務委員会委員長(国会議長に相当)などの任期制限(2期10年まで)を憲法(1982年制定)に規定した。また、明文化はされていないが(少なくとも海外の中国研究者はそれを把握していない)、中国共産党の最高意思決定機関である政治局常務委員会の構成員(いわゆる、チャイナ・セブン)の定年と任期制限がある、といわれている。

 中国共産党は、そうした精神を、1980年2月の中央委員会総会で「党内の政治生活に関する若干の準則」(「準則」)として確認している。同準則のなかで提起された政治原則のひとつが「集団指導体制の堅持と、個人専制の反対」であった。もちろん、その取り組みが成功しているかどうかの評価は別だ。

導き出される仮説

 7月26日の新華社通信の報道は、習近平政権がこの制度に手をつけようとしていることを、明らかにした。政治局会議は、「新しい情勢下の党内の政治生活に関する若干の準則」(「新しい準則」)の制定を10月の中央委員会総会の議題とすることを決定した。1980年2月の「準則」を「新しい情勢」に則したものに変更するというのである。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story