コラム

中国政治の暑い夏と対日外交

2016年08月18日(木)17時00分

Marko Djurica-REUTERS

<尖閣諸島周辺に終結した中国船は何を意味するのか。折しも中国は7月下旬に内政の季節に入った。5年に一度の党大会が行われる来年秋までは、中国の政治指導者の関心は内政に傾き、対外行動も内政に強く引きずられることになる。その間どんな対日政策が出てくるかは、習近平政権がどこまで権力を掌握しているかによって変わってくる>

 8月5日以降の尖閣諸島周辺海域における中国公船および中国漁船の活動は、日中関係を高い緊張状態に追い込んだ。海上保安庁が発表した資料によれば、5日から15日の午前8時までに200から300隻の漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業し、最大で15隻の中国公船が同時に接続水域に入域し、延べ28隻が領海に侵入した。通常この海域に展開している公船の数と比較して、極めて多くの中国公船が展開した。8月10日以降、領海への侵入は確認されていなかったが、外務省の発表によれば、17日になって4隻の中国公船が確認された。
 
 なぜ中国公船は尖閣諸島周辺海域に集結しているのか。中国の対日行動を分析する枠組みとして、中国国内政治と中国の対外行動とのリンケージがしばしば提起される。たとえば、権力の継承期に政権内部で派閥闘争が深まり、権力基盤を強化するために日本に対して強硬な姿勢を選択する、あるいは挑戦者が政権に揺さぶりをかけるために対日関係を利用する、という見方だ。

 すでにこの事案に関する多くの分析があり、かつ内政との関連性に言及したものは少なくない。しかしいずれも中国共産党内の権力闘争が背景にあるといった指摘にとどまっている。以下、内政の視点を踏まえながら、中国の対日行動について検討してみたい。
 

政治の季節に入る国内政治

 8月5日からさかのぼること9日。7月26日の新華社通信は、中国共産党の、そして事実上、中国の意思決定機関である中央政治局会議が、今年の10月に中央委員会総会の開催を決定したと報じた。この報道は、中国政治が国内政治の季節に入ったことを伝えるものであった。

 慣例によれば、来年の秋には中国共産党の全国代表大会(党大会)が開催される。5年に一度のタイミングで開催される党の大会だ。この党大会を経て、2017年秋から5年間にわたって中国を舵取りする指導者達が選出される。そして、その一部の指導者達は、習近平政権の後継政権を組織し、2022年から先の10年間の中国政治の中枢を務める。

 中央委員会総会は、毎年1回、秋頃に開催される。そして今秋の総会は、来年の党大会の直前の会議であることから、党大会に向けて党内の議論の方向性を決定づける重要な会議である。7月26日の新華社通信は、この総会の開催にむけた準備がはじまったことを伝えるものであった。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story