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焦点:欧州3カ国がパレスチナ国家承認、孤立深めるイスラエル

2024年05月23日(木)12時53分

 5月22日、スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が、パレスチナを国家承認すると表明したことで、イスラエルは国際社会における孤立を一段と深めた。写真は停戦を求めるスペイン・マドリードのデモ。1月20日撮影(2024年 ロイター/Isabel Infantes)

James Mackenzie

[エルサレム 22日 ロイター] - スペイン、アイルランド、ノルウェーの欧州3カ国が22日、パレスチナを国家承認すると表明したことで、イスラエルは国際社会における孤立を一段と深めた。

3カ国の決断は、パレスチナ自治区ガザやヨルダン川西岸に実際的な影響をほとんど及ぼさないだろう。イスラエルから締め付けられたパレスチナ自治政府は資金がひっ迫し、公務員への給与支払いにも苦慮している状態だ。

ただ、イスラエルを取り巻く問題は着実に積み重なっている。米国は、パレスチナ人を襲撃したユダヤ人入植者に制裁を科したほか、イスラエルがガザ最南部ラファに本格侵攻すれば武器供与を控えると警告。国際司法裁判所(ICJ)ではイスラエルのジェノサイド(民族大量虐殺)を巡る訴訟が起こされ、国際刑事裁判所(ICC)はネタニヤフ首相の逮捕状を請求した。

ネタニヤフ氏は、いわゆる「二国家解決」に長い間抵抗してきたが、2022年末に極右政党などと連立政権を樹立して以来、さらに抵抗を強めている。

3カ国の決定について、ネタニヤフ氏は「テロへの報奨」であり、パレスチナは「10月7日の大虐殺を何度も繰り返そうとするだろう」と述べた。

この発言はガザを巡る情勢の苛烈さを物語っている。和平交渉の望みは絶たれ、パレスチナ、イスラエルの2国家を並列させるという政治的解決は望むべくもなさそうだ。

イスラエル外務省は3カ国から大使を呼び戻すとともに、3カ国の駐イスラエル大使を召喚して10月7日のイスラム組織ハマスによる攻撃のビデオを見せた。

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院の中東アナリスト、ローラ・ブルーメンフェルド氏は、3カ国の決定は「外交的には大胆だが、感情的には的外れで非生産的だ」と言う。

「イスラエル人にとっては妄想を増大させ、イスラエルは孤高の存在であるというネタニヤフ首相の主張を裏付けることになる。パレスチナ人にとっては、偽りの期待を高めるだけで、民族の正当な夢の実現に向けた道筋は示されていない」と同氏は説明した。

<長期的な代償>

10月7日の惨事の責任を問われ、連立政権内で求心力維持に苦心しているネタニヤフ首相にとって、3カ国の発表は一時的な追い風になるかもしれない。敵意に満ちた世界に立ち向かっているイメージが強まるからだ。

エルサレム・ヘブライ大学の国際関係専門家、ヨナタン・フリーマン氏は3カ国の発表について「この戦争の初日から聞いてきた話を裏付けるものにほかならない。最終的に頼れるのは自分たち自身だけだ、という話だ。イスラエル政府がこの戦争で何をしているのかについての、政府の説明や描写を補強し得るとさえ思う」と語った。

しかし、イスラエルがパレスチナ国家樹立を阻むことの長期的な代償は、もっと重いものかもしれない。第一に、ハマスによる攻撃前にネタニヤフ氏が外交政策の最優先目標としていたサウジアラビアとの関係正常化が遠のく。

ブリンケン米国務長官は21日の上院委員会で、ガザに平安が戻り、パレスチナ国家に向けた「信頼できる道筋」ができなければ、サウジとの合意は達成できないと指摘。「イスラエルはその道筋を進むことができない、もしくは進む気がなさそうだ」と付け加えた。

伝統的にイスラエルに友好的な米国やドイツなどの政府にとって、イスラエルのガザ攻撃を巡る街頭や大学での抗議行動は、政治的なコストとしてますます重くのしかかりつつある。

両国は、パレスチナ国家承認は一方的な宣言ではなく交渉の結果でなければならないと主張。フランスや英国など他の欧州主要国も、3カ国の動きに加わらなかった。

しかしイスラエル外務省の元局長でネタニヤフ政権を批判するアロン・リエル氏は、個々の国の対応よりも、ICJとICCの動きを含む幅広い動向を重視している。「(3カ国のパレスチナ国家承認が)ICCやICJの動きや入植者への制裁等々、機運を引き起こす幅広い流れの一環であるなら、イスラエルが『世界の存在』に気づく可能性はある」と語った。

ロイター
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