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焦点:為替円安に身構える政府、先立つ懸念 「好循環継続」へ難路

2024年04月22日(月)10時29分

日本政府が為替円安に身構えている。日米韓の枠組みでドル高に対する懸念を共有して介入への布石を打ったが、効果に疑問の声も残り、円安がさらなる物価高に飛び火すれば好循環の流れに水を差しかねない。写真は2017年6月撮影(2024年 ロイター/Thomas White)

Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 22日 ロイター] - 日本政府が為替円安に身構えている。日米韓の枠組みでドル高に対する懸念を共有して介入への布石を打ったが、効果に疑問の声も残り、円安がさらなる物価高に飛び火すれば好循環の流れに水を差しかねない。今夏の減税で可処分所得を増やしても、物価上昇を上回る賃上げを定着させることができるかは難路をきわめそうだ。

<日米韓で共有した懸念>

「行き過ぎた動きには適切に対応するという、今の立場を説明した」。鈴木俊一財務相は訪米中の17日にイエレン米財務長官と会談したことを明らかにした。日本の立場について「よく聞いていただいた」と会談後、記者団に語った。

日米財務相会談に続き、17日には日米韓財務相会合を初めて開催。「最近の急速な円安、ウォン安に関する日韓の深刻な懸念」を認識し、「外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」ことを柱とする声明をまとめた。

背景には、米利下げ観測の後退に伴うドル全面高への警戒感がある。年初は3月にも米連邦準備理事会(FRB)が利下げに傾くとの見方もあったが、米金利先物市場の織り込みでは、早くても9月と予想が後ずれした。

日韓と同様に、通貨安に苦しむブラジル中央銀行のカンポス・ネト総裁は20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の議長国会見で、ドル高は「常に問題」と危機感をあらわにした。

<市場は155円を意識>

円安是正に向けた布石を打ったことは「非常に重要な動き」(同行筋)と位置付けられ、次の焦点は、日本がいつ為替介入に踏み切るかに移る。

「(日米韓財務相による共同声明は)先例もなく、大きな意味をもつ。今後過度な動きが出れば円買い介入する含意があるのだろう」と、政権与党の1人は語る。約34年ぶりの円安水準となる1ドル=154円台後半での推移の裏で、すでに市場は神経戦を繰り広げている。

「防衛ラインとみられていた152円を突破し、次は155円が意識されている。154円台後半では、ドル/円相場が再び膠着しそうだ」と、大手行関係者は言う。

昨年末に1ドル=141円台だった円相場は、足元で換算すると9%超減価している。ある政府関係者は「為替がこうなるとは正直思っていなかった」と漏らす。

<米利下げ頼みで曲折も>

もっとも「ワンショットの円買い介入がドル高という世界的な流れを変えられるかは判然としない」(前出の政府関係者)との声も残り、円安是正に向けては紆余曲折も予想される。「金利差が意識されている以上、米国の利下げ頼み」(与党中堅)との構図から抜け出せそうにない。

物価上昇を上回る賃上げを続けられるかにも黄信号が灯りそうだ。岸田文雄首相は「官民が連携して賃金が上がり、可処分所得が増える状況を今年の夏には確実につくる」と意気込むが、先行き物価が想定以上に上振れすれば、賃上げ効果が減衰するのは避けられない。

首相周辺によると、所得税減税を含む物価高対策は「24年度物価見通しを2.8%と置いていた段階で、日銀の見通しに沿って作った」(経済官庁幹部)とされる。

その後、日銀が物価見通しを2.4%に引き下げた分、余裕が生まれたとみられる半面、為替がもたらす影響は向こう数カ月にわたって頭痛の種になりそうだ。

(山口貴也、杉山健太郎 編集:橋本浩)

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