コラム

田母神とペイリンは似た者同士

2009年11月25日(水)18時55分

 航空自衛隊トップの航空幕僚長だった田母神俊雄が、政府見解に反する歴史認識の論文を発表して更迭されてから一年あまりが過ぎた。田母神はアパグループ主催の懸賞論文に日本は侵略国家であったのかと題したエッセイを投稿し、最優秀賞を受賞していた。

 1年前に参議院外交防衛委員会に参考人として招致された田母神を見て予想した通り、田母神の名は広く知れ渡り、今では日本の右派を代表する存在となった。右派系月刊誌『WiLL』は今年夏、一冊まるごと田母神をフィーチャーした増刊号を発行。田母神の論文や自伝的な読み物のほか、石原慎太郎や小林よしのりとの対談、櫻井よしこや渡部昇一・上智大学名誉教授、元国会議員の西村眞悟、京都大学の中西輝政教授など保守派の論客の投稿もある。

 田母神は日本のサラ・ペイリンだ。

 的外れな例えに聞こえるかもしれないが、そんなことはない。田母神はペイリンと同じく、自分は権力者、つまり国家の真のアイデンティティの表現を抑えつけている左派エリートに対抗して真実を語っていると主張する。

■保守派ポピュリストの代表に担ぎ出された2人

 田母神をはじめとする保守派の歴史修正主義者は、戦時下の日本にまつわる崇高な真実と美しい歴史を国民に知らしめ、日本人が再び祖国を誇りに思える政策を推進したいだけだと訴える。だが、彼らの主張は政策というよりも日本の魅力をアピールしているだけ。自尊心と偉大さを訴えるキャッチフレーズや、反日の左派から日本の過去を奪い返し、戦後体制から脱却しようというスローガンでいっぱいだ。

 ペイリンも同じだ。話題の回顧録『ゴーイング・ローグ(ならず者として生きる)』の書評を読むかぎり、彼女の著書は右派の決まり文句の羅列で、実質的な政策論議はほとんどない。

 しかも田母神と同じく、ペイリンも出来の悪いメディアを内なる敵とみなしている。さらに、伝統を守るべく保守派ポピュリストの代表に駆り出された点でも、2人はよく似ている。2人とも、国内外の脅威に立ち向かおうという祖国の決意を弱めようとする左派エリートによって、伝統が危険にさらされていると考えている。

 公的な立場にないほうが国家にモノを言いやすいことに気付いた両者は、ともに私人として活躍している。朝日新聞が報じたように、来年夏の参院選に比例区で立候補してほしいという自民党の打診を田母神が断ったのも当然の話だ。

 国会議員になれば順番が来るまで発言できず、礼儀作法に気を使い、242人分の1の存在になってしまうのだから、田母神が自身の講演活動と引き換えにして議席をほしがるはずがない。野党になった自民党の一議員より今の立場のほうがはるかに自由に民主党政権を攻撃できる。

■田母神の訪米が大統領選を左右する?

 田母神は来年、講演とディナークルーズのためにニューヨークを訪れる予定だ。その際には、日本の右派修正主義者とアメリカの右派ポピュリストの共通性の全貌が明らかになるはずだ。

 田母神とともに壇上に立つのは、元アーカンソー州知事で昨年の大統領選の共和党予備選でジョン・マケインの意外な強敵となったマイク・ハッカビーだ。

 狩猟を愛し、メディアを嫌うペイリンに比べれば優しく穏やかな印象が強いハッカビーだが、大統領選後の保守派の活動においてはペイリンと似た立ち位置にある。福音主義派の敬虔なキリスト教徒のポピュリストで、一部の世論調査では2012年の大統領選における共和党の最有力候補とも言われている。

 田母神は、アメリカが日本との戦争を始めたのはフランクリン・ルーズベルトがスターリンに操作されたせいだと信じている。そんな人物と同じ壇上に立つことになぜ同意したのか、誰かハッカビーに確かめてほしい。

 大日本帝国が人道主義を重んじていたという主張や、日本が中国に侵攻したのは自衛行為だという言い分、日本文化を堕落させるアメリカ文化への批判、日本の核武装構想──こうした田母神の思想をどう考えるのか、ハッカビーに問いただすジャーナリストがいることを願いたい。

 共和党の有力な大統領候補とみられている人物が田母神と接点をもってなお、アメリカ国民に支持され続けるとは私には思えない。

[日本時間2009年11月24日(火)11時45分更新]

プロフィール

ニュース速報

ワールド

IS最高指導者の生存を想定=マティス米国防長官

ビジネス

人民元対ドル基準値、9カ月ぶりの元高水準に設定

ビジネス

米運輸省が国内航空3社に罰金、過剰予約時の対応など

ワールド

米、ベネズエラに金融制裁検討 政権強権化阻止へ=関

MAGAZINE

特集:劉暁波死去 中国民主化の墓標

2017-7・25号(7/19発売)

ノーベル平和賞受賞者・劉暁波の「非業の死」は中国民主化の終わりか、新たな始まりか

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    トランプに「英語を話さない」と言われた昭恵夫人、米でヒーローに

  • 2

    中国人の収入は日本人より多い? 月給だけでは見えない懐事情

  • 3

    北の最高指導者が暗殺されない理由

  • 4

    次の覇権国はアメリカか中国か 勝敗を占う「カネの…

  • 5

    ファミマがIT駆使で業務見直し加速 アナログ重視し…

  • 6

    ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

  • 7

    シャーロット王女は「公務のプロ」 監視カメラが捉…

  • 8

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあ…

  • 9

    シャーロックとワトソンの名探偵コンビ、ドラマは衝…

  • 10

    エルサレムでの衝突はどこまで広がるのか──パレスチ…

  • 1

    トランプに「英語を話さない」と言われた昭恵夫人、米でヒーローに

  • 2

    ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

  • 3

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあの2人

  • 4

    中国人の収入は日本人より多い? 月給だけでは見え…

  • 5

    北の最高指導者が暗殺されない理由

  • 6

    宇宙からのメッセージ!? 11光年先の惑星から謎の信号

  • 7

    米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」…

  • 8

    アメックスから見た、日本人がクレジットカードを使…

  • 9

    アメリカの部活動は、なぜ「ブラック化」しないのか

  • 10

    中国が「くまのプーさん」を検閲で禁じたもう1つの理由

  • 1

    中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する

  • 2

    アメックスから見た、日本人がクレジットカードを使わない理由

  • 3

    トランプに「英語を話さない」と言われた昭恵夫人、米でヒーローに

  • 4

    米学生は拷問されたのか? 脱北女性「拷問刑務所」…

  • 5

    ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

  • 6

    エリザベス女王91歳の式典 主役の座を奪ったのはあ…

  • 7

    「地球の気温は250度まで上昇し硫酸の雨が降る」ホー…

  • 8

    中国人の収入は日本人より多い? 月給だけでは見え…

  • 9

    資本主義はついにここまで来た。「自分」を売り出すV…

  • 10

    海自の護衛艦いずも 南シナ海でレーダーに中国軍と…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

全く新しい政治塾開講。あなたも、政治しちゃおう。
日本再発見 シーズン2
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 別冊

0歳からの教育 知育諞

絶賛発売中!