コラム

【ウェブ対談:池田信夫×冷泉彰彦】慰安婦問題の本質とは何か<1>

2015年02月20日(金)12時46分

ニューズウィーク日本版公式サイトでコラム、ブログを連載する池田信夫氏と冷泉彰彦氏の2人が、昨年朝日新聞が「誤報」を認めたことであらためて関心が高まる慰安婦問題について語り合いました。この問題に今後日本はどう対応していけば良いのか、先月末に実施した2人の対談の内容を今月3回に分けて掲載します。


慰安婦問題について語る池田信夫氏(左)と冷泉彰彦氏(右) (c)Ouichirou Hamada/CCC Media House

冷泉 アメリカから見ると、日本が何にこだわっているかわかりにくいですね。「強制連行」ではなかったとして、要するに管理売春で人身売買。戦地で逃亡の自由はなく、当時は売春に従事する女性は「私有財産」だから、財産権を守るために警察が介入した例もあるだろうと。

 そこで、狭い意味での「強制連行」はなかったけれども、広い意味での強制性はあった。今の価値観で言ったら許し難い行為だった。そうやってAからBに言いかえることに何の意味があるのか、という疑問がありますね。

 アメリカの人たちと話していると、日本人が「御先祖様の名誉の問題」と考えることはわからなくはないけど、それが21世紀の今なぜ政治問題化するのかはよくわかっていない。

池田 私は91年(当時はNHKディレクター)から取材していますが、日本人もアメリカ人も誤解していると思います。そもそもこれは男性労働者の「強制連行」問題から始まっている。日韓基本条約(65年締結)で戦後補償は解決済みになっていたのに、韓国の軍事政権が80年代に「強制連行」があったと蒸し返した。そこでNHKが取材したけれども、そういう実態はないので番組は成立しないということになった。

 同時に女性の方も強制的に引っ張ってきた事実があったのではないか、ということで(NHKが)調べていたら、91年に初めて、軍の慰安所で働いていました、と名乗り出た人が記者会見をした。だけどそのおばあちゃんも、「日本軍に引っ張られました」なんてことは言わずに、だまされて軍の慰安所に行きましたが話が違うので逃げました、という話でした。

 それがなぜこんなに大きな問題になったかというと、吉田清治(故人)とか朝日新聞が言っていた「慰安婦狩りをして、何千人も朝鮮半島からさらってきた」みたいなことが本当にあったら大変なことで、日韓条約の時点で判明していなかった事実が出てきたのではないかと考えたわけです。

 ところがメディア各社が真面目に取材してみたら、吉田がまったくのホラを吹いていたという話だった。だからこれは最初からガセネタで、実態のない話です。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米のベネズエラ介入は大惨事招く恐れ、ブラジル大統領

ビジネス

FRB議長候補ハセット氏、インフレ「極めて低水準」

ワールド

サンフランシスコ大規模停電、顧客約11万件で電力復

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story