コラム

「日本未来の党」でよみがえる55年体制

2012年11月30日(金)14時24分

 滋賀県の嘉田由紀子知事を代表とする「日本未来の党」が発足した。嘉田氏が設立を表明した27日に、小沢一郎氏の「国民の生活が第一」が解党して60人が合流したほか、亀井静香氏の「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」などが合流し、所属国会議員は73人。民主・自民に次ぐ第3勢力になった。

 しかしその看板の「卒原発」は、他の野党がそろって主張している「脱原発」と変わらない。嘉田氏は知事のままで、何のために国政選挙に新党を立ち上げたのかよくわからない。小沢氏がクリーンなイメージの嘉田氏を利用したのではないかという疑惑がぬぐえない。彼女も「9月に小沢氏から接触があった」と認めている。

 1993年、小沢氏は自民党を離党して新生党を結成し、細川護煕首相を中心とする非自民連立政権をつくった。このときの彼のねらいは、自民党の長期政権に対して、非武装中立などの空想的な政策を掲げて「何でも反対」する社会党などが対立するだけで政権交代のできない「55年体制」を変えることだった。細川政権は小選挙区制を実現したが、その他はほとんど何もできないまま総辞職し、非自民連立政権は1年足らずで瓦解した。

 そのあと続いた政党の離合集散の中心にいたのは、つねに小沢氏だった。それも自由党のころまでは自民党より右の保守主義を打ち出していたのに、民主党に合流してからは左に舵を切り、消費税の増税に反対するなど、昔の社会党に似た路線に傾斜していった。そして党内の主導権が握れないとみると集団離党し、その総仕上げが今度の未来の党だ。

 これは、かつて小沢氏がつぶそうとした社会党と同じである。約70議席というのも、細川政権のときの社会党と同じだ。民主党は100議席以下に激減し、維新の会なども数十議席にとどまると予想されているので、このままでは自民・公明中心の与党に対して万年野党がぶら下がる55年体制が復活するおそれが強い。

 未来の党の基本政策は「活女性、子ども」や「守暮らし」などの抽象的なスローガンが並び、反TPP(環太平洋パートナーシップ)、反増税などの「何でも反対」党だ。「子ども一人当たり中学卒業まで年間31万2000円の手当を支給する」というのは、2009年の総選挙で民主党が掲げた「毎月2万6000円の子ども手当」と金額まで同じだ。その財源として「行政のムダを徹底的になくす」とか「特別会計の全面見直し」などの空手形が並んでいるのも同じである。

 何でも反対するだけで積極的な政策を掲げない未来の党が発しているメッセージは「痛みをともなう改革を拒否して現状を維持しよう」ということだ。これは合理的である。未来の党が政権を取る可能性はないので、いやな政策を掲げる必要はないのだ。誰でも原発はいやだし、税金は安いほうがいい。自由貿易や競争なしでのんびり暮らせるなら、そのほうがいい。社民党が「未来の党に合流したい」というのは当然である。

 このように実現可能性を考えないできれいごとを並べる万年野党が政権交代の緊張感をなくし、自民党の長期政権を許したと批判していた小沢氏が、「第二の社会党」を再建しているのは皮肉である。彼にとって「政治改革」は、竹下派の跡目争いに敗れて党を割るためのスローガンにすぎなかったのだろう。今度は「卒原発」というスローガンを掲げ、かつて細川氏をみこしとしてかついだように嘉田氏をかつぐわけだ。

 他方、政権を奪回すると予想されている自民党は、TPPにも増税にも原発にも曖昧な態度をとり、インフレ目標などの無意味な政策を掲げている。農協などの既得権に配慮して政策は官僚に丸投げし、現状を維持しようという点では未来の党と同じだ。両方の党に共通するのは、今まで日本が築いてきた富を食いつぶし、問題をすべて先送りしようという現状維持の欲望である。

 これは国民の気分にフィットしているのだろう。抜本改革を掲げた民主党政権があえなく瓦解し、政治は変わらないというあきらめが国民の中に定着してしまった。野党が美辞麗句を並べて国民の不満を「ガス抜き」し、与党がそれをつまみ食いして地元に利益誘導する55年体制は、それなりによくできていた。

 あと5年ぐらいは、このまま借金を重ねて生き延びることは可能だろう。その後のことはわからないが、政治家にとっては今度の選挙で生き残ることが至上命令だ。こういうアンシャン・レジーム(旧体制)を変えようとしたはずの小沢氏が挫折し、現状維持に回帰した今は、20年前ほどの改革の可能性も失われたように見える。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

ニュース速報

ビジネス

ギリシャ国債利回りが低下し6カ月ぶり低水準、追加融

ビジネス

三菱自、燃費不正補償の一部で特損191億円計上 前

ビジネス

増税・補正規模・解散、強まる政策不透明感 日本株は

ビジネス

ドラギECB総裁への個人批判は過度で危険─仏中銀総

MAGAZINE

特集:アメリカとヒロシマ

2016-5・24号(5/31発売)

オバマが現職の米大統領として初めて広島を訪れる──。被爆地に注目が集まる今だからこそ耳を傾けるべき声がある。

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  2. 2

    サンダースが敗北を認めない民主党の異常事態

  3. 3

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  4. 4

    【動画】ドローンを使ったマグロの一本釣りが話題に

  5. 5

    歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

  6. 6

    北朝鮮がアフリカに犯罪者数百人を「輸出」疑惑

  7. 7

    「オバマ大統領27日広島訪問、原爆投下謝罪せず」ホワイトハウスが発表

    伊勢志摩サミットで来日時に現職の米大統領として…

  8. 8

    行動経済学はマーケティングの「万能酸」になる

  9. 9

    イランがホロコースト風刺画コンテスト、シャルリ・エブドへの報復

  10. 10

    パリ発エジプト航空MS804便が消息絶ち、緊急シグナルを送信

    消息を絶ったとみられる地域でエジプト空軍が捜索…

  1. 1

    中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

    今年で文化大革命が始まって50年だが、中国政府は…

  2. 2

    安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

    <オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍…

  3. 3

    オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由

    ジョン・ケリー米国務長官は今月11日、G7外…

  4. 4

    パナマ文書問題、日本の資産家は本当に税金逃れをしているのか?

    〔ここに注目〕日本の企業活動、税法の特徴…

  5. 5

    ジャーナリズムと批評(2):絶滅危惧種としての理論家と運動

    映画化もされた小説『虚栄の篝火』や、ノンフィクシ…

  6. 6

    出版不況でもたくましいインディーズ出版社の生き残り術

    日本と同様、出版不況に直面するアメリカの出版業界…

  7. 7

    ヒラリー対トランプの「ゴシップ合戦」に突入した大統領選

    アメリカの大統領選は、ここへ来て「ゴシップ合…

  8. 8

    現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ

    共和党に2カ月遅れて、民主党もようやく今週1…

  9. 9

    AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ

    「AIやロボットが人間の仕事を奪うようになる」とい…

  10. 10

    シリアの惨状を伝える膨大な映像素材を繋ぎ合わせた果てに、愛の物語が生まれる

    シリア人の監督オサーマ・モハンメドが作り上げた『…

  1. 1

    米テキサス州、地震急増の原因はシェール採掘か=研究

    米テキサス大学オースティン校の地質学者クリフ…

  2. 2

    中国戦闘機2機が米機に異常接近、南シナ海上空で=米国防総省

    米国防総省は、南シナ海上空で17日、中国軍の…

  3. 3

    パリ発のエジプト航空機が消息絶つ、海に墜落か 66人搭乗

    エジプト航空の乗員・乗客66人を乗せたパリ発…

  4. 4

    行儀悪い売り方やめた、「白物家電の二の舞い」懸念=スズキ会長

    スズキの鈴木修会長は10日に開いた決算会見で…

  5. 5

    訂正:三菱自の燃費不正は経営陣の圧力 国交省、スズキには再報告要請

    会見内容などを追加しました[東京 18日 ロイ…

  6. 6

    米テスラ、株式発行などで2200億円調達へ 「モデル3」開発加速で

    米電気自動車(EV)メーカーのテスラ・モータ…

  7. 7

    訂正:三菱自、相川社長が6月引責辞任 益子会長は新体制発足まで続投

    三菱自動車は18日、相川哲郎社長と中尾龍吾副…

  8. 8

    焦点:南シナ海仲裁裁判に台湾が横やり、裁定遅延の恐れも

    台湾の当局に近い団体が、南シナ海の領有権をめ…

  9. 9

    ECB追加措置の検討は秋に、必要なら新規買入可能=リトアニア中銀総裁

    リトアニア中央銀行のバシリアウスカス総裁は、…

  10. 10

    インタビュー:トランプ氏、核阻止へ金正恩氏との会談に前向き

    米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナル…

Newsweek特別試写会2016初夏「疑惑のチャンピオン」
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

コラム

辣椒(ラージャオ、王立銘)

中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

パックン(パトリック・ハーラン)

破壊王! トランプの「政治テロ」が促すア