コラム

暴走する大阪維新の会は自滅の道を歩むのか

2012年05月18日(金)13時47分

 このところ、いろいろな週刊誌などに「橋下徹首相」という特集が出る。私にもその取材が来たが、記者は「政治ネタには読者が反応しないのだが、大阪維新の会だけは別だ」といっていた。私も橋下氏が旧来のイデオロギーにこだわらないで「負の所得税」などの思い切った政策を提唱していることは評価してきたが、このところ暴走が目立つ。

 一つは、大阪維新の会の市議団が5月議会に提出しようとした「家庭教育支援条例案」だ。これは「発達障害の原因は親の愛情の不足だ」という怪しげな説にもとづいて「1日保育士」の体験を義務づけるものだ。この条例案は橋下市長が「差別を助長する」として市議団に見直しを要請して撤回されたが、維新の会のガバナンスの弱さと知的水準の低さを印象づけた。

 もう一つは関西電力大飯原発3・4号機の再稼働をめぐって、関電に対して不可解な要求を出して混乱を助長していることだ。大阪府市統合本部が「原発再稼働の条件」として出したのは、「原発から100キロ圏内の住民の同意を得て府県と原発の協定を締結する」とか「使用済み核燃料の最終処理体制確立」など8つの条件である。

 大飯原発から「100キロ圏内」といえば、福井県だけではなく、京都府・大阪府・兵庫県・滋賀県・鳥取県・岐阜県まで含む。これだけ広範な府県・市町村すべての同意がないと原発を運転できないとすれば、全国の原発が運転できなくなるだろう。最終処理体制も同じで、当面の再稼働とは何の関係もない。要するに、ハードルを無限に上げてすべての原発を止めようとしているのだ。

 こうした活動の中心になっているのは、大阪府市の特別顧問である古賀茂明氏(元経産省)だ。彼はきのうワイドショーで「関電は『停電テロ』を仕掛けようとしている」と述べ、これに対して関電は次のような異例の「お知らせ」を出した。



古賀茂明氏の「火力発電所でわざと事故を起こす、あるいは事故が起きたときにしばらく動かさないようにして、電力が大幅に足りないという状況を作り出してパニックをおこすことにより、原子力を再稼動させるしかないという、いわば停電テロという状態にもっていこうとしているとしか思えない」というインタビューが紹介されましたが、当社として、そのような事を検討している事実は一切ありません。

 関電の全発電量の48%をまかなう原発がすべて止まったままで、真夏のピークを迎えるのは危機的な状況だ。関電は老朽化した火力発電所を稼働してぎりぎりの運転を続けており、大阪府市が危機を乗り超えるために協力しなければならないパートナーである。それをテロリスト呼ばわりするのは、危機管理を放棄したと受け取られてもしかたがない。

 古賀氏とともに大阪府市の特別顧問をつとめる飯田哲也氏は、福島第一原発事故の前から「すべての原発を廃止して再生可能エネルギーで100%まかなう」という計画を宣伝していた。彼にとっては今回の事故は原発を廃止に追い込む千載一遇のチャンスなのだろう。そういう政治的な目的のために、彼が危機を拡大するのは合理的な戦術である。

 しかし橋下氏が考えている「決められない政治」を克服するという目標にとっては、こうした混乱は有害無益だ。原子力をどうするかというのは、国政の中では経済政策の一つであるエネルギー戦略の中の枝葉の問題にすぎない。そもそも大阪府も市も関電に対して何の許認可権ももっていないのだから、外野から要求を突きつけること自体がナンセンスだ。

 このようにいろいろな関係者が口を出して意思決定が複雑化したことが、政治が決められなくなった原因である。野田首相は無意味に時間をかけて「地元の理解」を求めようとしているが、発電所の運転を許可するのは経産相の専権事項であり、地元の同意は必要ない。こうした「過剰なコンセンサス」を断ち切らない限り、日本の政治は立ち直れない。

 そういう外野の雑音に耳を貸さないで法にもとづいて決める合理主義が橋下氏が支持を集めた原因だが、今は維新の会が最大の雑音を作り出している。こういう無責任な行動を続ける限り、彼らが国政に進出するのは無理だろう。このままブレーンの暴走を放置していると、そのうち自滅する。橋下氏は初心に返って大阪の改革に専念し、国政の問題は政府にまかせるべきだ。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師死亡と報道、トランプ氏「

ワールド

アングル:イラン攻撃に踏み切ったトランプ氏、外交政

ワールド

イラン情勢、木原官房長官「石油需給に直ちに影響との

ワールド

茂木外相、「核兵器開発は決して許されない」 米攻撃
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 3
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKIが語った創作と人生の覚悟
  • 4
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 5
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 8
    トランプがイランを攻撃する日
  • 9
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 10
    今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story