コラム

「ハエへの殺虫効果」「オスにとって精力剤的な一面」を確認...岡山大「カフェイン×昆虫」研究の成果と期待される応用

2025年02月11日(火)09時45分

その後も、少量のカフェインがミツバチの延命に効果をもたらすことが示されたり、逆に高濃度のカフェインを昆虫に与えると発育抑制や寿命に対する負の効果が見られるといった報告があったりしました。けれど、害虫に対してカフェインがどのような影響を及ぼし、害虫駆除に有効かについてはよく分からないままでした。

高濃度のカフェインが昆虫の寿命に影響するとしたら、カフェインは除虫菊のような天然由来成分による殺虫剤や農薬の候補になる可能性があります。また、ヒトがカフェインを取り過ぎた時の悪影響に関しても新たな知見が得られるかもしれません。

「昆虫とカフェイン」にまつわる世界初の見解

今回、「ヒロズキンバエとカフェインの関係」について研究した宮竹研究室は、これまでも「昆虫とカフェイン」をテーマにユニークな研究をしてきました。

たとえば、20年にはカフェイン入りの砂糖水をコクヌストモドキ(貯蔵穀物の害虫)に飲ませてみたところ、カフェインを飲んだオスはメスへの求愛が活発になり、メスに早くマウントし、交尾器も早く突出させることが分かりました。けれど、より多くの卵を受精させる効果はなかったので、「カフェインは昆虫のオスにとって精力剤的な一面がある」という世界初の見解を発表しました。

本研究では、「今までカフェインによる害虫駆除としてコーヒー抽出物の散布などの方法が試されてきたが、効果が明瞭でなかったのはカフェインをきちんと昆虫の体内に取り込めていないからでないか」と考え、苦いカフェインを砂糖水に混ぜることでヒロズキンバエに経口で確実に摂取させて調べることにしました。

ヒロズキンバエは成虫が1~1.5センチ程度の大きさで、世界中に広く分布しています。通常、虫卵は腐敗した物質(動物の死体や糞便)に産み付けられます。つまり、死体にウジが湧いたり、生ゴミに虫がたかったりする時にイメージされる昆虫です。

病原体を媒介する害虫で、衛生状態が悪い国では傷口に虫卵が植え付けられる危険もあります。一方、近年はミツバチの代替としてイチゴの新たな花粉媒介昆虫としたり、無菌状態で繁殖させたウジに壊死組織を食べさせて治療に役立てたりする活用も注目されています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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