コラム

AIを利用した創薬、新素材開発の時代がやってきた

2019年04月04日(木)13時26分

Kebotix社も、同様に化合物のレコメンドにAIを使う考え。ただKebotix社CEOのBecker氏自身は、創薬にはまったく興味がないという。「化学の研究者には2種類のタイプがいる。1つは、薬を作りたい研究者。もう一つのタイプは、(物事を)爆発させたい研究者。私は完全に後者だ。政府のゆっくりとした新薬認可プロセスに付き合うつもりは、さらさらない」ときっぱり。創薬に関して多くの製薬会社からアプローチを受けているが、Kebotix社では創薬専門の子会社を作り、別の人間をCEOにする計画だと言う。

Kebotix社の開発した全自動実験装置の核になっているのが、Generative Machine Learning(生成機械学習)を使ったInverse Design(逆問題解析)と呼ばれる手法だ。

yukawa20190403121406.jpg

ニューラルネットワークの伝統的手法であるオートエンコーダーは、例えば入力と出力に手書きの数字の4を入れてエンコードとデコードを続けることで、真ん中の一番小さく圧縮されている隠れ層と呼ばれる部分に、4の特徴が残るという仕組みになっている。

この仕組みを応用し、入力にタバコを吸っている女性の顔写真、出力にアイシャドウをつけた女性の顔写真を設定すれば、真ん中の隠れ層に両方の女性の顔の特徴を持った写真が生成される。隠れ層の女性の顔写真は実在しない女性の顔写真だが、どれも女性らしい特徴を備えたものになっている。実在しない人間の顔写真を生成する技術として、少し前にニュースなどでよく取り上げられていた技術だ。

yukawa20190403121407.jpg

ハーバード大学の化学の研究者たちは、これを化学に応用した。入力にアスピリンを、出力にカフェインを設定。真ん中の隠れ層には、アスピリンとカフェインの特徴を残した化合物がいくつも生成された。あとは、この中から使えそうな性質や機能を持つ化合物を探し出すだけ。人間の化学者が一から生成するよりも、時間と労力を大幅に短縮できることになる。

この仕組みを作って同社が作り上げたのが、化合物を自動的に生成する全自動実験装置だ。同社では、それをKebotix Platformと名付けた。

yukawa20190403121408.jpg

人間は、求める特性をKebotix Platformに入力するだけ。あとはAIが、可能性のある化合物の構造データを無数に作り出し、別のAIが、その中から有望なもの数個に絞り込む。その構造データを基にロボットアームが液体もしくは気体の化合物を生成し、化合物が指定特性を持っているのかどうかの実験を繰り返す。実験の結果は、生成のAIにフィードバックされる。Kebotix Platformがこの試行錯誤のループを何度も回すことで、最終的には求める特性の化合物を作り出すことに成功するはずだとBecker氏は言う。

yukawa20190403121409.jpg

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米が重要鉱物備蓄へ、120億ドル投入 中国依存低減

ビジネス

米ディズニー、25年10―12月期は予想上回る テ

ワールド

米特使、3日にイスラエル訪問 ネタニヤフ首相と会談

ワールド

インド26年度予算案、財政健全化の鈍化示す フィッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story