コラム

「中国の妨害工作や訓練か」と専門家...台湾で相次ぐ「海底ケーブル」切断の真相は?

2023年03月04日(土)19時06分
大西洋の海底ケーブル敷設作業

フェイスブックとマイクロソフトによる大西洋の海底ケーブルを敷設する作業を行う作業員(スペイン、2017年6月) Vincent West-Reuters

<台湾本島と離島を結ぶ海底ケーブルの切断については、本当に事故だったのかを怪しむ声が専門家からも上がっている>

先月、台湾から不穏なニュースが報じられた。

台湾メディアの報道では、2月に入って、台湾の本島と離島を結んでいる通信用の海底ケーブ2本が相次いで切断されたという。

この2本の切断事件は、2月2日に台湾本島と馬祖列島を繋ぐ海底ケーブルが中国の漁船によって切断され、その6日後には中国の貨物船が別の海底ケーブルを切断した。この通信ケーブルはインターネットの通信を可能にしているもので、離島などでインターネットの使用がかなり制限されることになった。

■【動画】島国である日本で、もしも海底ケーブルが切断されたら...そのリスクは?

使用制限と言ってもピンとこないかもしれないが、住民の話では、テキストのメッセージを送信するのに10分もかかるという。しかもホテルの予約サイトなどもまともに機能していないし、ビジネスにも大きな影響を与えている。

しかも修理には時間がかかるようで、修理船の手配の関係で最短で4月20日まで修理はできないという。それまではマイクロ波通信で対処していくことになり、通信スピードなどネット接続が大幅に制限される。

しかも修理費用には、65万ドル(約8800万円)以上かかる可能性がある。もちろん、中国側がこれを補償してくれるはずがない。そもそも、切断との関与すら否定するだろう。

これは台湾だけの問題ではない。世界のインターネット通信は、95%ほどが海底ケーブルを通って行われている。海底ケーブルは、光ファイバーのケーブルで、その名の通り、海の底に敷かれて大陸間を繋いで、インターネット通信を運んでいる。2020年12月の時点で、世界では475本の海底ケーブルが使われている。

インターネットが使えなくなると、国や地域の生活や経済に大変な影響を与えるわけで、安全保障の問題になるのは言うまでもない。となると、国につながる海底ケーブルが切断されると、国家の危機にもつながるような事態を招く可能性がある。しかも、海底ケーブルがどこに敷設されているのかは、オンラインでも簡単に情報が手に入るほどオープンになっている。狙いを定めることも出来なくはないのだ。

単なる事故ではないとの見方も

日本も、海底ケーブルが遮断されるようなことがあれば、インターネット通信網に混乱をきたすだろう。

今回の台湾での切断事件は、単なる事故ではないとの見方もある。実は、台湾本島と馬祖列島の通信を支えている海底ケーブルは、ここ5年の間に、切断など20件以上の故障が発生している。この頻度は他の地域の海底ケーブルと比べても断然多い。

そう考えると、切断が本当に事故だったのかに疑問符が付く。

アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の研究員で、英オックスフォード大学の客員研究員でもあるエリザベス・ブラウ氏は、「このケーブル切断事件は、中国による標的型の妨害行為か、または、台湾のインターネット接続を遮断するための訓練であるとも考えられる」と述べる。

今回の台湾における海底ケーブル切断事件と、海底ケーブルそのものについては、「スパイチャンネル~山田敏弘」で解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story