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山本彌生|アメリカ

『体験格差』って 何?! 一歩進んだ、米ポートランドから5つのアドバイス

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Photo of Albertina Kerr | Courtesy eventective

| 「吐き出す方法がわからない」ストレスからくる問題の先に

ポートランド市に立地するアルバーティナ・カー。オレゴン州・ワシントン州を示すノースウエスト域で、最も大規模(職員500名)で長い歴史を持つ(創立1907年)NPO子ども支援福祉施設です。

目指すところは、子どもたちとその家族の生き抜く力を個別にサポートすること。

生活の中で危機に陥った児童・生徒(5~17才)に、カウンセリングはもちろんのこと。安全で安心できる短期宿泊施設を提供。同時に、精神的な安定、精神鑑定、移転先の計画など。広い範囲のケアが充実しています。

その施設で、2019年からマーケティング&コミュニケーション部長を務めるジャネットさん。学生時代は中距離選手だったという。小柄な身体から温かいエネルギーがほとばしる、それは素敵な女性です。

開口一番、コロナ禍から、うつ病、不安神経症、自殺願望、薬物使用への興味増大・薬物依存症が急増したと言います。

必然的に、家から出られない生活の影響。加えて、日々の大人との会話、交流、体験不足が主な原因。そう、ゆっくりと話し始めてくれました。

「大人が想像する以上に、ニューノーマルという新しい日常が直接的に影響を及ぼしています。社会的交流の変化、親や周りにいる大人からのケアや目配りの減少。地域社会や仲間からの孤立など。見えない形で怖いぐらいに、少しずつ精神衛生面に浸透していくのです。」

パンデミックを機に、急激に新しい生活の型が世界各国で導入されました。いつ終わりをむかえるか判らないソーシャルディスタンス、休校、クラブ活動停止。医療用手袋やマスクの着用という未曽有の事態。

社会ネットワークの破壊から、人と心と身体の距離の取り方に混乱をし、不安や孤立を感じる児童・生徒が一気に増えたと説きます。

Jeanette.jpgPhoto | Jeanette Holtmann Weston

| 今すぐできる(いや、してほしい!)「5つのアドバイスと方法」

「日本でも、精神状態がより不安定になる子どもが増え続けています。コロナ禍が長引くのと比例して、生活困窮世帯も増加。その結果として、日本中に教育格差や体験格差が広がっている現状です。

そこで読者に、そして同分野の組織に対して何かヒントはありますか。」

その問いかけに、5つのアドバイスを提示してくれました!

親・親族、そして地域の大人が、「子どもの心の健康を保つためにできる 5つの方法」

① 子供と一緒にスケジュールを立ててみましょう。

起床時間、就寝時間、食事時間。そして最も重要な、コンピューターや携帯電話のスクリーンタイムを話し合いによって決めて、それを保つ生活をおくること。

〚 因みに、米国小児科学会は、2才未満のスクリーンタイムはNG。2~12才の子どもには1日1時間。13~17才には1日2時間前後を勧めています。〛

② 大き目のカレンダー(またはホワイトボード)を使って、①で立てた家族や友人との活動、自分の自由時間などを事前に書き入れます。そしてそれを、家族が見えるところに置きましょう。

活動は、有償である必要などありません。地域の無料イベントなど利用することで、体験学習の数が広がります。

こうすることで、子どもたちは自発的に行動に移しやすく、かつ自由を感じることが出来ます。そして最大のポイントは、親が口うるさく言うというマイナス行動が、自然に減ってくるという点です。

③ SNS上でのコミュニケーションではなく、直接仲間と交流する機会を持つように促しましょう。

ネット上からだけの情報を得る。得た情報について誰とも話さない、話せない。自分で得た情報にについて、誰からも意見や修正がされない。

すると、自分の凝り固まった(好みの)思考に固まって閉じこもってしまう。特に子どもは、顕著に偏った思考に陥りやすいのです。

直接顔を見て意思の疎通をとる。このような社会的経験が少ないまま暮らしていくと、人間関係のひずみが生まれやすくなるというのは明らかです。

親や信頼できる 大人との交流や時間を作り、意識して定期的に行いましょう。

大人とのポジティブな関係は、心の健康と成長を支えるために必要な要素です。人間関係や人生のストレス要因を、安全で信頼のおける大人と一緒に乗り越える。その様な経験・体験をした子どもは、大きくなってからも必要な時に必要な人に助けを求めることができます

⑤ 学校や公共の支援を通じて、交流センター、無料体験学習。その他、必要に応じて健康・メンタルヘルス相談窓口やサービスを利用しましょう。(恥じることは一切ありません。)

親や親族だけでのケアは難しい。ですから、問題解決に向けて一歩を踏み出すための相談機関や窓口を探すことから始めましょう。

最後に、読者へのコメントを聞くと、優しい声で力強く答えてくれました。

「今、多くの子どもたちは、仲間や親、社会からの現実的なプレッシャーに直面する機会が倍増しています。同時に、コロナ、SNS、社会の変化などにも対応していかなければいけない複雑な時代です。

成人前のこどもが、この社会と繋がっていると感じられる経験は不可欠です。そのためにも、大切に思っているということを『言葉で伝えてあげて』ください。ほんの小さな言葉がけ一つで、彼ら彼女らの人生に明かりが灯りますから。

心を閉ざしたり、内向きになったりする原因は何なのか。批判ばかりする前に、その理由を考え気付いてあげてください。

今の時代と環境を見据えて、子どもを新たに守っていくことの必要性。そんな新しく具体的な取り組みを始める地域こそが、住民から求められる『住みやすい町』になるはずです。」

ジャネットさんの人生のモットーである、『包摂的なコミュニティーで、大切にされ、教育され、育まれることで、すべての子どもと大人は成長していける。』この表現が、心に強く響き続けます。

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Photo | iStock

時間と体験に投資をするというのは、教育活動の大切なことがら。と言いつつも、親自身の経済的かつ心の余裕がないこのご時世。

国という行政の対策を待っている間。地域社会が、親と子が拠り所とする安全な場所を提供する。そんな時期なのかもしれません。

もし、そんな場所が一つでもあれば、親以外の信用できる大人から与えてもらえる会話や体験によって、児童・生徒の成長する幅も広がっていくのではないでしょうか。

とはいえ、そう簡単ではないのも解ります。

でも、児童・生徒が成長する過程でも、何らかの形でその地域・まちを担っている。ですから、まちづくり・地域活性は、ある意味、その地域の子どもの幸せ度と安心感と共にある。そう感じるのです。

大げさな事ではなく、あなたのやっていた何らかの日常の経験。それを「一緒にやってみない?」「グループとして行ってみようよ!」そんな小さな行いは、共有できるかもしれませんよね。

今、住んでいる地域の子どもに対する目線。それをほんの少しだけ意識し始める。そんなあなたとお話がしてみたいです。

次回は、今世界を襲っている『物価高』について深堀り! 地産地消で有名なポートランド。なのに、卵が1パック 750円+ ってどういうこと!? 原材料高騰のリアルな生活現状。価格高騰からの外食離れ現象も。中小店舗や企業は今、どのような工夫を強いられているのでしょうか? 月中旬掲載です!

記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。
 

Profile

著者プロフィール
山本彌生

企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。

Facebook:Yayoi O. Yamamoto

Instagram:PDX_Coordinator

協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)

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