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ドイツの街角から

シュピッツナーゲル典子|ドイツ

コロナ禍2年目ドイツの冬 ホロコースト生還者に学ぶ苦境を乗り越える術とは

過去に起こったことを許すとか許さないという視点で振り返るのではないとマルゴットさん。

「善良な人々が命をかけて私を助けてくれました。誰にでも良いところがあると信じています。これまで300校以上の学校を訪問し、自分の人生について話してきました。

この子たちが過去と何の関係があるのか?祖父母が何をしたかなどは知りたくもありませんし、興味もありません。当時、ユダヤ人嫌いの毒は、子供たちに組織的に注入されていたのです。

今日、反ユダヤ主義について私は何の恐れも感じませんが、理解することはできません。私たちは警戒を怠らないようにしなければなりません。だから、学校の授業でZoom の画面を通して話したり、生徒と対面して伝えたり、ジャーナリストを目指す人達に本を読んであげたりしています。大切なのは、伝えていくことだと思います」

過去の体験を語る度に壮絶な思い出がフラッシュバックして苦しい。一方で語り伝えていくことがセラピーにもなっていると明かすマルゴットさんだ。

「これは私のミッションです。600万人のユダヤ人だけでなく、ナチス政権の犠牲になったすべての人々のために、私はもう話すことができない人々のために話すのです。私は、ドイツの若者のおかげで、信念を持ち、希望に満ち溢れています。それが私の生きる糧となっています。私は、若者たちと話をし、手を差し伸べるためにベルリンへ戻ってきたのです。

あなた方が証人になってください、私はもう長くはいられないので。私は心臓を患っていて、体力が衰えているのを感じます。でも、ここに来てよかったと思います。ドイツは私の故郷です。ここには、私を愛し、支えてくれる素晴らしい友人の輪があります。私は自分のことをドイツ人だと思っていますし、この国に属しています。私は苦しくてつらいとは思いません。それどころか希望に満ちています」

・・・・・・・・・・

こうしてマルゴットさんの歩んできた人生をふり返ってみると、過去と現実を受け止め、どう対応していくか、そしてその中でできることを着々と実行していくこと・・・そんな当たり前のことを改めて思い知らされた。

今回紹介した書籍は、マルゴットさんの100歳(11月5日)を記念して、反ユダヤ主義委員会のサビネ・ロイトホイザー=シュナレンベルガーさんとのインタビューを中心にしてまとめた一冊。2021年はドイツで1700年のユダヤ人の生活を祝う特別な年を迎えたこともあり、これを機に出版された。Ich tue es für Euch

コロナ禍2年目の冬。ドイツでは度重なる規制やロックダウンで疲弊を訴える人が多く、その不満が色々な形で表面化している。年明けにはオミクロン株感染者が急増すると予測されていて、先行き不安な毎日が続く。コロナ感染症の終息はまだまだ先のことになりそうだ。ベストを尽くし前進するのみ、そして力強く生きていきたいと思う。

参考 : Bunte Politik 36 2021

 

Profile

著者プロフィール
シュピッツナーゲル典子

ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。

Twitter: @spnoriko

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