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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

パリの超人気パティスリー セドリックグロレに見る高級スイーツ ハイブランド戦略

お花畑のような、まさにインスタ映えそのものの外観  筆者撮影

行列の絶えないお店というのは、パリには、まあまあ、ありますが、その多くはハイブランドといわれるシャネルやルイヴィトンなどのファッション関係のお店か、あとは、もっと庶民的なところで、人気のラーメン屋さんや人気のレストランなどにも、けっこうな行列ができていたりします。

もともと、並ぶということが嫌いで苦手なイメージのあったフランス人も最近はけっこう、自分が価値を認めるものには、行列もいとわないようになりましたし、何よりパリには、世界中からの観光客という強い購買層が存在するので、ハイブランドの店舗にできる行列の多くは観光客が担っているとも言えます。

日頃は、「行列に並んでまではいいかな?」と思って後ずさりしてしまう私も、やはり行列ができていれば少々、気になり、しかも食べ物ともなれば、食い意地の張っている私としては、「これだけ行列ができるということは、さぞかし美味しいんだろうな・・」と思ったりもしてしまいます。

そんな中、最初はたまたま通りかかって、「なに?この行列?」と思って、そのお店を知ってから、ずっと気になっていたセドリック グロレというパティスリーがありました。ハイブランドのお店はともかくとして、レストランなどの行列ならば、さすがに行列ができているのは、食事時のことですが、このお店、本当に一日中、行列が絶えません。そんなに必死にSNSで情報を探しているわけでなくても、たまに、「あそこのクロワッサン、やっぱり、すっごく美味しかった!」などという投稿を目にしたり、友人から、「並んだよ・・でも、やっぱり美味しい・・」などという話を漏れ聞くようになって、私の好奇心はいよいよ抑えきれなくなり、「バカンス中の今だったら少しは行列も少ないのでは・・」などという甘い考えを起こしたことから、ドツボにハマることになりました。

無理せず大量生産せずに、さらに価値をあげる

急に思い立って出かけたものの、まだ午前中、夏のバカンスシーズンで、いつもよりは、人が少ないパリの街、お店もどこか閑散としている店舗が多い中、ここだけは、いつもと変わらずの大行列。しかし、私がとりあえず、食べてみたかったのは、クロワッサンで、行列用に用意されているロープのポールに「クロワッサン等のヴィエノワズリー(パイ生地の菓子パン?類は、12時まで、午前中のみの販売です」と書かれていて、11時頃にお店に着いた私は、「セーフ!」と思って、行列に並び始めました。並ぶこと40分ほどで、ようやく私は店内に入れたものの、すでにクロワッサンは売り切れで、「え~~~?ないなら並ばなかったのに~~!」と思いつつも、これだけ並んで手ぶらで帰るのもいたたまれずに、その日は、シナモンのヴィエノワズリーを買って帰りました。

「また、並ぶのも嫌だな~」と思いつつも、家に持ち帰ったヴィエノワズリーを食べてみると想像以上に美味しく、その時点で私はまんまとドツボにはまり、「なにがなんでも、クロワッサンや他のヴィエノワズリーも食べてみたい!」と、もう意地になってきて、再度、今度は開店時間を目掛けて出かけることにしました。

たかがクロワッサンごときに、こんなに意地になるのも、自分でも少々、バカだな・・と思いつつ、このまま、諦めるのも悔しい気もちだったのです。

翌日は、開店時間ほぼピッタリの時間にお店に到着したにもかかわらず、お店の前には、前日以上の大行列。考えてみれば、午前中しか売っていなくて、しかも、数量限定どころか、数量未定というあくまでも、絶対に品質は落とさないというお店のペースから、完売した時点でその日のヴィエノワズリーは終了なのですから、私のように思い付きで意地になってやってきている人間とは、真剣身が違います。行列に並んでいる人々を見ているとかなりの割合で観光客、「数日しか滞在しないパリでの時間をこの行列に割くのだろうか?」とも思いますが、逆に「今、ここでしか買えない!」という思いがあるのかもしれないし、日常的に暮らしていれば、わざわざ、こんな行列に並んでいられない、しかも、値段がふつうのパティスリーやブーランジェリーなどと比べると、何倍もするビックリするくらいのお値段なので、こんな値段では、とても買わない!となるのがふつうです。

お店のデコレーションやパフォーマンス

このお店の人気の根幹は、そのクォリティーはもちろんのことですが、パティシ的なスターシェフ(セドリックグロレ)の存在という一つのブランドを彩る様々な演出もあると思われます。このセドリックグロレという方は、パリの五つ星のホテルムーリスのパティシエであり、その後、数々のコンクールで最優秀賞を受賞しており、2017年には、ニューヨークでも世界で最優秀のパティシエに選ばれています。

そんな彼がこのお店をオープンしたのは、2019年11月のパンデミックが始まる直前のこと。タイミングとしては、最悪の時期にオープンしたわけですが、そんな苦難の時期を乗り越え、この盛況ぶりは見事なものです。

お店の内装、外観には、お花畑のような色とりどりのお花のデコレーションでいわゆるインスタ映えそのもの、その中に美しいスイーツが置かれているのですから、これは、ものすごく魅力的な絵です。しかし、一般的なパティスリーと違って、ショーケースの中にたくさんのケーキが並んでいるわけではなく、現在、売られているスイーツはそれぞれ見本用にガラスのカバーに覆われた状態のものが一つ一つおかれているだけというまるで宝石のような扱いです。

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また、ふつうのパティスリーには、あり得ないことですが、このお店の前には、ノータイではあるものの黒服の背の高い男性がおり、この彼の存在が他のお店とは一線を画している印象を与えています。お店の前に黒服の男性・・とくれば、少々、気難しい怖い印象を持ってしまいそうなところが、しかし、この彼、いたって感じがよく、オープンの際、また、お客さんがお店に入店するタイミングで「Bienvenu!ビアンヴニュー!(ようこそ!)」と笑顔で対応し、また、行列にも随時、気を配って、お客さんにも気軽に応対してくれます。極めて高級な感じと親しみやすい感じが上手く融合しています。

また、途中、雨がパラついてきたり、あまりに日差しが強くなってくると、行列しているお客さんにお店のロゴの入った大ぶりの黒い傘(日傘、雨傘兼用)を貸してくれたりして、もう、これは、アヴェニューモンテーニュなどのハイブランドのお店のやっているサービス同様です。

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たしかなクォリティーと立地条件 スイーツ界のハイブランド

行列に並んでいる間、観光客を連れた現地のフランス人のガイドさんなども、お客さんを連れて通りかかると、「ここは、今、パリで一番人気のパティスリーで、いつもすごい行列で・・」などと、説明していきます。並んでいるお客さんに、「そんなに美味しいの?」と聞くと、ほとんどの人がまだ、食べたことのない人で、「知らないけど、美味しいらしい・・」という返答。そりゃそうです。そんなに頻繁にこの行列に並んでいる人がいるとも思えません。しかし、お客さんは、買い物が済むと(1階(日本でいう2階)には、イートインスペースもあります)、これまた、こじゃれた贅沢な紙袋を手にして、ごきげんに写真を撮りまくり、彼らがまたSNS上で宣伝してくれるのです。

このお店はパリ2区のオペラ通りにあるのですが、このオペラ通りというのも、きっとポイントのひとつで、近くには、ルーブル美術館、オペラ座はもちろん、チュイルリー公園、ちょっと歩けば、ヴァンドーム広場、コンコルド広場と絶好な場所でもあり、けっこう有名な通りでもあるにもかかわらず、この通り沿いには、今一つ、ぱっとするお店もなく、お店の入れ替わりの多い場所でもあるのです。

名だたるパリの観光地の近くといえば、観光客が多いのは、当然でもありますが、また、この観光客は、お財布の紐がゆるいというか、ふつうだったら、絶対買わないような値段のスイーツやクロワッサンを「せっかく来たのだから・・」と惜しげもなく買っていきます。ここのスイーツの平均価格は1個17ユーロ程度(現在のレートだと円安もあり、なんと約2,600円)、ふつうに考えたら、あり得ないようなお値段ですが、彼らはさんざん並んだ憂さ晴らし?も手伝ってのことなのか?紙袋をいくつも抱えて帰る人もいます。

たとえば、ここから、少し離れたところには、ギャラリーラファイエットがあり、そのグルメ館には、名だたるスイーツのスターシェフがブースを設けて出店していますが、それらのお店とも一線を画している感があります。一時は、パリのスイーツといえば、とにかくマカロンという感じもあり、実際に多くのスターシェフのお店でもマカロンを置いていますが、ここには、マカロンもありません。世の流れに乗るのではなく、流れを作っている感じがします。

こう考えると、このお店は、明らかにこれまでのスイーツ界のスター的存在であった店舗から、さらに上を目指しているスイーツ界のハイブランドを狙っているような気もします。

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結局、私は、この日は、結局、1時間半くらい並んだがゆえに、当初は「クロワッサンとパンオショコラくらいでいいや・・」と思っていたにもかかわらず、「これだけ並んだのだから・・」と、クロワッサン等のヴィエノワズリー、その日、売っていたものを一つずつ買ってしまうということをやらかして、後から考えたら、「ウッ!高かった!!」と思ったくらいまんまとやらかしてしまったのですが、とりあえずは、売り切れにはならずに買えて、大満足でした。

さて、問題のお味ですが、これで大したことなければ、ちょっとはケチがつくところですが、悔しいことに、やっぱり、かなり美味しくて、たかがクロワッサン、ヴィエノワズリーとはいえ、見た目も芸術品のように美しく、また非の打ちどころがみつからない味。特にクロワッサンなどは、下手をすると油っぽくて・・となりそうなところが、外はパリパリ、中はしっとり、口に含んだときに鼻から抜ける空気までが美味しい感動ものの逸品でした。

今、パリでは、ファッション業界にしても、ハイブランドといわれる超高級品か、ハードディスカウントショップか?といわれるほどに両極化が進み、中間層にあたるブランドが苦戦を強いられていますが、ここに来て、このお店は、数あるパリのスイーツのパティスリーの中でも頭一つ抜けているのかな?という気がしています。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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