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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

シャルルドゴール空港の伝説のホームレスと人道支援船オーシャンバイキング

 今年に入ってから、ヨーロッパを目指す1,891人の移民が地中海で行方不明になっている     pixabay画像

地中海で救助された234人の移民を乗せた人道支援船オーシャンバイキング(Ocean Viking)(NGO SOS Méditerranéeのチャーター船)が地中海で安全な港を求めて3週間さまよった後、フランス政府がトゥーロン(フランス南東部に位置する地中海に面するフランス海軍の基地がおかれている)の軍港に停泊することを受け入れたことで、フランスでは大論争が巻き起こっています。

イタリアとの不協和音と欧州内での移民受け入れと亡命権

この論争は、フランス国内だけでなく、オーシャンバイキングの停泊を拒否したイタリアを「船を最寄りの港に停泊させなければならないと定められている欧州内のルール(海事法)を尊重していない、責任ある欧州の国家として容認できない行動である」と、イタリアの対応を理解し難い行動、非人道的であるとして、強く非難しています。NGO SOS Méditerranée(SOS地中海)は、イタリア側との43回に及ぶ交渉の末、全く受け入れないイタリアに埒が明かなくなり、フランスに停泊を申し入れたと説明しています。

今回のこの救助船のトゥーロン軍港への停泊は、人道上、見るにみかねて、大統領が、人道上の義務として、今回の措置はあくまで「例外的」ということや「亡命者の基準を満たさないものは直ちに直接送還する」ことを強調しながら認めたもので、併せて234人の移民の3分の2は、欧州の他の国々(ドイツをはじめとして、クロアチア、ルーマニア、ブルガリア、リトアニア、マルタ、ポルトガル、ルクセンブルグ、アイルランドの9カ国が同意)に迎えられることになっていることが発表されています。つまり、逆に言えば、移民の3分の1はフランスに留まるということを意味しています。

とはいえ、オーシャンバイキングの受け入れは、国際的な人道的決断とはいえ、移民受け入れに否定的な右派、特に極右の人々は、「これが移民救助における前例となるのではないか?」との反発を生み、左派やエコロジストの人々からは、「フランスの価値観(美徳)にふさわしい決断である」と絶賛し、対立を強めていますが、この「人道上」という言葉はまことに罪深い言葉でもあるような気がします。

この救助船は到着後、厳重な監視下におかれ、全ての乗客はフランス領内への入国前の管理手続きを行う国際区域内のスペースにおかれ、現実的にはフランス国内には入国していない待機場所に収容されています。乗客は、バングラデシュ人、エリトリア人、シリア人、エジプト人、パキスタン人、サマリア人、スーダン人、ギニア人と発表されていますが、これらの人々はフランス難民無国籍人保護局(Ofpra)との面接が行われ、国籍申告国との接触が行われ、本人確認と認知の手続きの後、彼らの亡命申請が妥当で根拠あるものかどうかが審査され、また、安全保障上リスクをもたらす人物については、出身国に帰還できるように強制退去手続きが行われます。

とりあえずは、フランスは現政権においては、人道的な立場を尊重することが見える出来事でもあります。これがお花畑的な、きれいごとばかりを言うとの反発をも生んでいるのですが、フランスには、外国人がフランス領に入るために必要な書類を持たずに国境に現れた場合、その人は亡命を申請することができるという亡命権というものが存在しています。

スピルバーグ監督にインスピレーションを与えたシャルル・ド・ゴール空港の伝説のホームレスも亡命者

日本で生まれ育った私にとっては、亡命するということが、どうにもピンとこないのが正直なところですが、命懸けで自国を脱出する人々がこんなにもたくさんいるというのもまた、現実なのです。

ちょうど、先週、シャルル・ド・ゴール空港の伝説のホームレスと言われた人物が、死の数週間前にシャルル・ド・ゴール空港の我が家?に戻って死亡したというニュースに、なんだか、つい、うっかりじ〜んとしてしまったばかりですが、彼もまた、亡命者であったのです。彼はイランから亡命して以来、なんと、1988年から18年間もシャルル・ド・ゴール空港で暮らしていたという人で、1999年に難民認定を受け、ビザを取得していますが、そもそも18年間も空港で生活し続けるなどということは、今ならあり得ないことですが、彼がそのような生活を送っていたということは、当時は、それが許容されていたのだと思われます。

彼は「ここは、公共の施設なのだから、なんびとにも権利がある」と当時のインタビュー映像で語っていますが、彼は空港の自分のスペースで、好きな時に本や新聞を読み、WALKMANで(時代を感じる)好きな音楽を聴き、自分の思いを書き綴る生活を続けていましたが、何のきっかけからか、スティーブンスピルバーグ監督に見出され、監督が彼からインスピレーションを受けて映画「ターミナル」を制作したことから、一挙に彼は有名人となり、シャルル・ド・ゴール空港の伝説のホームレスとなったのです。

今回の人道支援船での亡命者たちとは、時代も性質も異なるとは思いますが、これらの話を聞いてもなお、亡命するということが、私には未だにピンときません。私は、命の危険を脅かされる環境にいる人々の気持ちというものを本当には理解できずに、人道的などという言葉を軽々しく使うことはできないな・・などと思うのです。

シャルル・ド・ゴール空港のターミナル2Fに居を構えていた彼は、空港関係者の間では、黙認された、ある意味特別な存在であったようですが、サンドイッチ屋とマクドナルドに挟まれた数平方メートルの三角形が彼の日常生活の中心で、空港のトイレが彼のバスルームで、上着やズボンは定期的にクリーニングに出しながら清潔を保ち続け、決して問題は起こさず、他のホームレスが助けを求めてきたり、食べ物を求めてきたりしても、彼は何も言わず、何も要求せず、お金も出さず、他とは一線を画す存在だったと言われています。

彼を知る人々は、「素直だけど口下手で正直者だが口数の少ない人」「彼は仙人だ、現代社会の僧侶を思わせる 」とも語っており、ある意味、大いに哲学的な印象も受けます。そんな彼はスピルバーグの映画が公開された数年後に、お金が入ったことや健康を害したこともあり、病院経由で、パリ郊外のホステルに居を移していましたが、数週間前に再び、荷物を持って空港に現れ、空虚にうつろな目をして、ベンチに座っていたところが目撃されていますが、その後、彼が死亡したことが確認されました。彼の死は自然死と発表されていますが、自然死とは、普通、老衰のようなものを連想するところ、彼の年齢(享年77歳)からいって、老衰とは考え難く、事故や事件ではなかったという意味合いだったものと思われます。

私の想像ではありますが、病気などで死期を悟った彼が最期の場所として、シャルル・ド・ゴール空港を選んで戻ってきたのではないか?だとすると、そんな彼を遠くから見守っていたシャルル・ド・ゴール空港にも温かみを感じてしまうところですが、そもそも亡命するという体験をしてきた彼には、彼なりの哲学があり、それを全うしたのではないかとジンと来てしまったのです。

2023年に検討される「移民法改正案」

しかし、現実問題として、人道支援船のような手段でやってきた移民が順当に生活していくことは、それはそれで容易なことではないはずで、「命を救うこと」を大前提としながらも、フランスは2023年には「移民法改正案」を検討していくことが予定されており、人手不足に喘ぐ業界を救うために、一定の業界においては、積極的に正式なビザを発行していく一方で、ビザの有効期限切れ等の退去義務命令(OQTF)(obligation de quitter le territoire français) を強化して、対象となる移民を「指名手配者ファイル」(FPR)に登録し(現在登録者58万人)、OQTFの対象となるすべての人を監視するよう要請する(ただし、監視対象は危険人物のみ)と発表しています。

少し前にパリ15区で起こった12歳の少女が殺された陰惨な殺人事件も犯人が滞在許可証の期限切れのために退去命令が出ていた外国人だったために、一部の政党をはじめとして、移民に対してのプレッシャーが高まっているタイミングでもありました。

人道的に命を救うために、亡命してくる移民を受け入れはするものの、現実には、パリでの犯罪行為で逮捕された人の48%、マルセイユで55%、リヨンで39%が外国人という発表(こんな統計は存在しないと反発の声もあり)は、衝撃的でもあり、フランス人を脅かす存在にもなり得ると言うリスクも孕んでいます。

国際移住機関(IOM)によると、今年に入ってから、ヨーロッパを目指す1,891人の移民が地中海で行方不明になり、そのうち1,337人が中央地中海で行方不明になったといいます。この数字を見れば、人道支援船に救助された人々はまだ幸運で、小さなボートで子供まで連れて自国を脱出せざるを得ない人々のことを考えれば胸が痛みますが、かといって無尽蔵に受け入れることができないのもまた、至極当然のことでもあり、そのバランスが重要なのだとは思いますが、とかく「移民問題」に関しては、その議論が両極端に傾きがちな気もする今日であります。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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