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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

アルビルを襲った弾道ミサイル攻撃の衝撃

©iStock-Elen11

ここイラク北部では徐々に気温も上がり、春の近づきを感じます。

郊外では茶色の大地にゆっくりと緑のカーペットが敷かれはじめ、今からまた外でのんびりとできる季節の始まりが楽しみで仕方ありません。

そんなワクワクする季節にあるイラク北部のアルビルですが、日曜日未明、衝撃の走る事件がありました。

    

アルビル市北東部に12発の弾道ミサイルが着弾

地元メディアの報道によると13日午前1時30分頃、イラン領内から発射されたと見られる12発の弾道ミサイルがアルビル市北東部シャウェス地区にある建設途中の米国総領事館付近に着弾。現在の所、市民2名の負傷が確認されています。

また地元の有力者の家が半壊状態となり、ここクルディスタンではマスメディアに位置するKurdistan24の建物が被害を受けました。

同僚の弟がこの地区のスーパーマーケットで働いており、着弾した瞬間も働いていたそうです。

最初、大きな地鳴りとともに突如昼間になったかと思うほどの明るさになったと言っており、弾道ミサイルの威力の大きさを物語っています。

報道などで米国の領事館がターゲットにされたと言われていますが、この地区にはロシアの総領事館も位置しており、店にいた人々は最初、このロシアの総領事館を狙ったものかと思ったとも言っていたそうです。

事実、建設途中の米国領事館の建物自体には全く着弾せず、損傷も確認されていません。

ともかく、これほどの大規模な攻撃が行われた中で建物の損傷と2名の軽傷者だけという被害は奇跡と言ってもよいでしょう。

   

攻撃の目的とその背景

2020年初めにバグダードで起きたイランのソレイマニ司令官暗殺事件以降、米国を中心とした多国籍軍が駐留するアルビルも何度も攻撃のターゲットにされてきました。しかし昨年は初夏に起きたドローンによる自爆攻撃を最後に比較的静かだったこともあり、久しぶりの大規模な攻撃に緊張が走っています。

この事件が起きた当初は、また以前のようにイランをバックにしたシーア派民兵組織の犯行かと見られていました。しかし13日の夕方頃にイラン革命防衛隊(IRGC)というイランの正規軍が関与を認める声明を出しています。

声明によれば、IRGCは先週イスラエル軍による空爆で殺害された2名のIRGC兵士のための報復攻撃としており、アルビルに存在するとイラン側が主張するイスラエル諜報機関モサドの秘密基地を狙ったと述べています。

攻撃を受け、クルド自治政府のバルザーニー首相だけでなく、イラクのカーズィミ首相、またイラク新政権の中枢を担うと見られ以前は反米運動の急先鋒であったサドル師もが攻撃を非難する声明を出しています。また米英を中心とした西側諸国も相次いで非難声明を出しています。

イスラエルによるシリア領内での攻撃が13日の弾道ミサイル攻撃の理由として挙げられていますが、その他にもシリア北東部で米軍とロシア軍がお互いすぐ近くに駐留しており、イラク北部のアルビルはその米軍に対しての後方支援基地としての役割も担っています。今回アルビルがターゲットにされたのは、シリア国内での米国、イラン、そしてロシアの対立が昨今のウクライナ情勢を受けてさらに表面化したという可能性もあるでしょう。

また西側諸国は現在、イランと新たな核合意(JCPOA)の締結を目指しており、今回のIRGCの関与で合意が遠のく可能性も出てきています。

   

市民と政治の反応

攻撃が起きた翌朝も私は出勤しましたが、街はいつもと変わらない様子でした。

2020年の最初のロケット弾攻撃直後、「今後イランとアメリカの全面戦争になるのか」との噂も流れ市内全体が重苦しい雰囲気だったことを覚えています。しかしその後2年の間に何度も類似の攻撃を経験し、アルビル市民も攻撃がすぐ傍にある日常にある意味慣れてしまったと感じています。

それとは逆に、今回イラクの政治の世界では今までとは違う緊迫感が報道を通して伝わってきています。

昨年の攻撃まではあくまでイラク国内の親イラン系シーア民兵組織の犯行とのことで、攻撃もイラク国内から行われていました。

しかし今回の攻撃では、イラン領内から正規軍がイラク国内に弾道ミサイルを撃ち込んだことで全く次元の違う事件となりました。いよいよ主権の侵害への対抗措置の論調が強くなる可能性もあり、昨年の総選挙の後、現在新政権の樹立を目指す途上の不安定なイラクにおいてさらなる混乱がもたらされる可能性も高いと見ています。

カーズィミ首相も安全保障委員会を招集、同時にイラン大使を召還し説明を求めるという今までには見られなかった対応を見せています。それだけ、イランとアメリカの対立にイラクがさらに巻き込まれていくことに危機感を覚えていると言えるでしょう。

散発的な攻撃で終わることを願っていますが、IRGCのアドバイザーが「この攻撃は始まりに過ぎない」ともSNSに投稿しており、米国権益に対する更なる攻撃も今後予想されています。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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