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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

コロナ禍から一年経ったクルディスタンの今日

アルビル市の中心地広場 ©筆者撮影

現在、イラクはラマダン(断食月)の折り返しに差し掛かりました。
僕はムスリムではないので、なんちゃって断食として夕食しか食べない生活のみを行っていますが、日中は水も食事も一切断つムスリムの人たちはすごいなーと感心をする日々です。

そんなイラクのクルド自治区(通称:クルディスタン)も昨年の今は新型コロナの対策で長くロックダウン状態にありました。
今回は、ここクルディスタンにおける新型コロナを巡るここ一年の情勢を緩く振り返っていきたいと思います。

初めてのCOVID-19感染者確認

イラクでは2020年2月の終わりに、南部の都市ナジャフで初めての新型コロナの感染者が見つかりました。
ナジャフはシーア派の聖地でもあり、すでに感染が拡大していた隣国のイランからの帰国者が確認された最初の感染者となりました。
 
ここクルディスタンでは、北東部のイランと国境を接しているスレイマニア県で最初の感染者が3月1日に見つかりました。スレイマニアは歴史的にもイランとの結びつきが強く、クルド自治政府が国境を閉じた後も非公式ルートを通じて人々の往来があり、そこから感染が拡がったと見られています。
 
 

長いロックダウン(都市封鎖)

イラクではその後、比較的長く感染を抑え込めている状況が続きました。
ここクルディスタンも3月、4月、5月と一日に一桁の感染者が見つかる程度でした。

その理由は、長期間に及ぶロックダウン(都市封鎖)のおかげと見られていました。

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もぬけの殻となったアルビル中心地広場 ©筆者友人撮影

イラクは度重なる戦乱と腐敗が原因で医療インフラが機能不全に陥っており、ひとたび感染爆発が起きると簡単に医療崩壊を起こすと見られていました。そのため、政府当局は早い段階から規制を強め買い物や通院以外の目的の外出禁止を発令。

数日から一週間に及ぶロックダウンを何度か繰り返し、国境や県境をまたぐ移動も禁止。
経済活動は完全に止まっていました。

そのせいで多くの貧困層が生活が苦しくなり、特に低所得者層が多いシリア難民の人たちは生活が立ちいかなくなったことで多くが情勢がいまだ不安定なシリアへと戻っていきました。


コロナ第一波の到来


そしてラマダン明けの2020年5月末頃。イラクでは第一波が到来しました。
一日に一桁だった感染者は二桁、そして数百人となり、イラク全土では一日に5,000人を超える日も記録するようになりました。(ちなみにイラクの人口は約4,000万人)

先進国などでは第一波、第二波とそれぞれ波が大きいが短いという特徴があるかと思いますが、経済活動のさらなる停滞というリスクを冒せないイラクの政府はその後大きな対策をとることをせず、結局5月末に始まった感染拡大は9月頃にピークを迎え、12月末まで続く大きな波となりました。

この間、僕の友人にも陽性となった人が何人かおり、彼らの親戚で亡くなってしまった人もいました。
これは肌感覚でしかありませんが、実際に数字で出ている数倍は当時コロナに罹った人がいるのではないかと思います。

特にイラクなど中東の国は大家族で暮らしている家庭が多く、家族で一人が外で感染し家の中で残りの家族にうつすというケースが多かったのではと思われます。

進行中の第二波と足りないワクチン供給

そして小康状態であった1月を経て、2月の半ばからイラクではコロナの第二波が拡がっています。

スクリーンショット 2021-04-27 221010.png

イラクの新型コロナ一日あたりの新規感染者の推移 Source: Dong E, Du H, Gardner L. An interactive web-based dashboard to track COVID-19 in real time. Lancet Inf Dis. 20(5):533-534. doi: 10.1016/S1473-3099(20)30120-1

現在はイラク全土で一日に8,000人を超える感染者が確認される日も珍しくなく、いまだにピークを抜けていません。

そんな中でイラクにもコロナワクチンが到着しています。
COVAXファシリティの枠組みの中で、アストラゼネカ社製、ファイザー社製、そして中国からシノファーム製のワクチンが少量ですが届いており、医療従事者や高齢者を中心に接種が始まっています。

現在(4月23日まで)、イラク全土で約30万回分の接種が完了しようとしていますが、いまだに人口の0.5%も接種が進んでいません。
イラク全土で集団免疫達成と言われる70%の接種率を達成するには、恐らく2022年までかかるだろうと言われています。

ほとんど規制のない今日

欧州やその他途上国を見ていると、感染者が急増するとロックダウンを行うという手段が当たり前になっていますが、ここクルディスタンでは自治政府が大規模なロックダウンを行うことは恐らくないだろうと思われています。

一点目は、これ以上経済活動を止めることができないという理由です。
昨年のロックダウンで多くの日雇い労働者である貧困層の生活状況が悪化しました。これをもう一度行えば暴動が起きるかもしれないと、当局が恐れている背景があります。

二点目は、そもそも市民が指示に従わないという理由です。
昨年のロックダウンでは、新型コロナという未知のウィルスに対して人々も恐れていました。しかしよくも悪くも「コロナ慣れ」を起こしており、外出禁止措置を敷いても市民が言うことを聞かないだろうと考えられています。

実際、今年の4月初めに夜間外出禁止令が数日間に渡り敷かれましたが、僕の自宅前の大通りも普通に車が走っているのが確認できました。

感染者の数はピークに達しており、ここクルディスタンでも医療機関のひっ迫もよくニュースで報道されています。
早くワクチンの接種が進み、イラクでも新型コロナの終息が近い日を願ってやみません。

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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