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サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国より

古庄亨|ブラジル

戻ってきたブラジルサッカー、戻らないブラジルサッカー

Meeting table with Brazilian flag-iStock

戻ってきたブラジルサッカー

サッカーを食べ、サッカーを飲み、サッカーと寝る国、ブラジル。

遂にこの国にサッカーが戻ってきた。

 3月21日、ブラジル政府よりCovid-19に関わる感染拡大防止措置としてQuarentena(検疫措置)が発表され、同月24日より実施された。これにより、不要、不急の外出は認められなくなり、公園やスポーツ施設を含む、多くの施設も強制的に閉鎖となった。

サッカー界も例外ではなく、各クラブの活動は停止、トップチームでさえ練習を行う事はできなくなった。

この時、保健省から発表された予想では7月〜8月に感染者増加がピークを迎え、9月頃から収束に向かうとの事であった。

 本来であれば、3月は各州にて州選手権を開催しており、2020年の各州王者が続々と決定していた上、ブラジル全国選手権の開幕を控えており、2020年のサッカーシーズン到来をファンやサポーター、関係者がワクワクしながら待っていた時期である。

もちろん、今回のこの状況は誰のせいでもなく、誰が悪いという訳ではない。
全世界が初めて体験する状況であり、それぞれの判断や行動の正解は後になってみないと分からないだろう。

その中で、こういった危機的状況の際のブラジルのクラブ、選手、OB達の行動の早さは見習うべきものがある。

クラブや選手は、サポーターや地域の人達に支えられているという意識の強いブラジル。

日に日に増える感染者数、医療崩壊が起きる可能性があるという事で、複数のクラブが普段試合で使用するホームスタジアムを野外病院として提供する事を発表した。

筆者の住むサンパウロでも、市の象徴的なサッカースタジアムである「パカエンブー」が野外病院として使用された。(既に閉鎖済)

(サンパウロ市サッカーの聖地 パカエンブーの野外病院設置を伝えるニュース)


そして地域のリーダーとしての自負を持つ各クラブは、高齢者や貧困層への食料や医薬品の支援活動も積極的に行い、同様に選手やOB達も当たり前の様に支援活動を行った。

サッカーが全てだと普段は言いながらも、そのサッカーが誰によってプレーできているかを絶対に忘れないサッカー関係者達。

彼らが困った時には、すぐに行動するクラブや選手。

一番大事なのは人、だから困った時は助け合うという、人と人との繋がりの深さが色濃く残るのは、この国の魅力の一つである。

◉貧困層、貧困地域への支援をするクラブ、選手OB

(元ブラジル代表 ドゥンガ氏による貧困層への食料、医薬品支援)

 
 そして、Quarentena(検疫措置)の実施から約4ヶ月、各州での州選手権の再開が決定された。
(※Quarentena自体は9月13日時点でも継続されており、全ての州ではなく開催中止を決定した州もある)

無観客開催ではあるが、7月から各州の州選手権が再開され、8月からブラジル全国選手権が開催、続いてコパ・ド・ブラジル、そして南米王者を決めるコパ・リベルタドーレスの再開も数日後に控えている。

現在各チームは、水曜か木曜、そして土曜か日曜の週2回のペースで試合を行っている。
コロナ禍の影響でスケジュールが大幅に遅れた影響で、来年2月までクラブ、選手共にハードなスケジュールをこなしていく。
連戦による疲労や怪我、累積等も考慮し、各クラブはトップ、U-23のカテゴリーの所属全選手を起用しての総力戦になると予想されている。

 バールやレストランの営業規制がまだ残っている為、試合の日に大勢で集まってお酒を飲みながら、大騒ぎして贔屓のチームを応援するというブラジルのどの街でも見られる風景は戻ってきていない。だが、試合の翌日は勝ったチームのユニフォームを着ている人が多く歩いていたり、すれ違う人達の会話が昨日の試合の事だったりと、静かにではあるが少しずつブラジルの日常生活の中にサッカーが戻りつつあり、嬉しさが込み上げてくる。

ちなみにブラジル以外の南米の国に目を向けると、
国内リーグが開幕、再開されたのが、ウルグアイ、チリ、ペルー、エクアドル、パラグアイ。
未定がアルゼンチン、ボリビア。
そしてコロンビアが9月13日再開予定となっている。

戻らないブラジルサッカー

 サッカーのトップカテゴリーが再開し、女子トップカテゴリー、23歳以下のカテゴリー、フットサルのプロリーグ開幕と、一見順当に見えるブラジルサッカー。

一方で下のカテゴリーの再開は全く目処が立っていない。

公立、私立の学校登校に関しては、当初の予定であった9月8日から10月初旬に延長され(オンラインではスタート済)、現地日本人学校は11月初旬が登校開始予定。インター校では、状況によっては年内はオンラインでのレッスンのみという学校もあり、かなり慎重な対応となっている。

地域の小さなクラブやスクールはトレーニングを再開したところもあるが、多くが人数制限を行ったり、対人プレー禁止等の限定的なメニューでの再開となっている。

逆に再開が難しいのが名門、強豪と呼ばれるビッグクラブでは無いだろうか。
特にプロカテゴリーを持つチームであればあるほど再開へのハードルが高い。

これは所属している選手達の置かれている状況による所が大きい。
小さな地域クラブは日本の多くの子供達と同じ様に、地元の学校に通い、自宅から近くのクラブに向かいトレーニングを行う。

一方、ブラジルの強豪チームに所属する選手達は生活が全く異なる。

セレクションやスカウトによって全国から集められた中学生、高校生年代になると少ないながらもクラブから給料が支払われ、親元を離れクラブの寮に入りクラブ指定の学校に入校、同じクラブの同じカテゴリーの選手達と寝食を共にしながら試合や練習に明け暮れる。

この寮の環境がネックとなる可能性が出てきている。
寮の生活は、環境の良いクラブは2人部屋、通常は4人〜6人部屋は当たり前で、クラブの財力によっては30人部屋などもある。

余談ではあるが、筆者も選手時代に3段ベッドを経験した事がある。
一番上の段はすぐ天井で、落ちたら必ず怪我をするという中々スリリングな体験であった。

話を戻すが、学校の再開の目処も立っておらず、親元から離れて選手を預かり、三密を避けてクラスター対策や感染対策の為に施設環境の改善などを行う事を考えると、クラブのリスクはかなり高い。各クラブからの下のカテゴリーのプロトコールはまだ発表されていないが、中々簡単にはまとまらないだろう。(筆者が代表を務めるスポーツアカデミーのフットサルコースは、体育館の使用許可が下りず今も休講となっている。)

3月下旬の規制開始からあっという間に半年が経った。
今後の予想や社会情勢を考えると、個人的には年内の再開もままならないのではないのだろうかとさえ感じている。実際に23歳以下の今シーズンの活動を中止と発表したクラブもある。

延期になったオリンピックの選手達のピーク再調整、コンディショニング維持の難しさが取り上げられているが、サッカー界の未来の至宝達が1年近くも満足に練習ができない、試合も経験できないとなると、様々な事を吸収できる一番大事な時期、また人生の勝負を掛けたい時期を逃す事になり、本人やサッカー界にとって大きな損失である。

ブラジルでプロを目指す為に、はるばる海を渡ってきた日本人の中にも、泣く泣く帰国をした選手もいた。年齢的に最後のチャンスだった選手もおり、何とも言えない気持ちになってしまった。自分が選手だっただけに、ワンチャンスを逃す重みは理解しているつもりである。

そういう環境でもプロになる選手はなるし、条件が揃っていてもなれない選手はなれないという意見があるのもわかる。一つの意見として正論で間違いないのだが、実際に本来あったチャンスが無くなってしまった選手がいることも事実だ。

今はただ一刻も早くブラジルのコロナ禍が収束し、年齢・性別・世代関係無く楽しめる様な生活に戻れる事を願うばかりである。

ストリートサッカー_パウリスタ大通り.jpeg(パウリスタ大通りでボールを蹴る子ども達:筆者撮影)
 

Profile

著者プロフィール
古庄亨

ブラジル・サンパウロ在住。日本・ブラジル・タイの3ヶ国で、2010年までフットサル選手としてプレー。2011年より5年間、都内スポーツマネージメント会社勤務。2016年ブラジルに渡り翌年現地にて起業。サッカーを中心にスポーツ・教育関連事業で活動中。

Webサイト: アレグリアスポーツアカデミー・サンパウロ

Twitter: @toru_furusho

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