コラム

サイバー空間の治安・安全保障というビックテックの公共性を再評価すべきだ

2022年12月23日(金)14時59分

デジタル分野の競争政策の議論には安全保障の視点が必要だ...... Yuji_Karaki-iStock

<日本は欧米のビックテック叩きの猿真似をするのではなく、その政策が本当に必要なのかを再検討する必要がある......>

ビックテックは政治的・経済的な話題になりやすい存在だ。経営者個人が有する莫大な富は人々の羨望の的となり、その一挙手一投足は政治論争の種になる。また、当然であるが、それらの企業が展開するビジネスは世界の経済社会環境を実質的に変えるインパクトを与えている。

しかし、その社会的な注目に比例する形で、ビックテックに対する民衆からの嫉妬の感情は尋常なものではなくなっている。ワシントンD.C.における反資本主義的なデモ隊はアマゾン創業者であるジェフ・ベソスの自宅前にギロチンを建てる蛮行に及んでいる。これはフランス革命を模したもので、革命勢力が王侯貴族を処刑する際のシチュエーションを想起させることを狙ったものだった。

反資本主義的なイデオロギー的な妄信は、社会の健全な発展を阻害するとともに、治安問題や国家安全保障上の問題を引き起こすことに繋がる。自分達よりも富めるもの、社会的に大きな影響を持つ大企業を無分別にバッシングする行為は、大衆のガス抜きとしては役立つものではあっても、決して社会全体にとってプラスに繋がるものではない。

日本の「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」

日本政府の内閣官房デジタル市場競争本部事務局が取りまとめた「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」の内容も実に酷いものだった。

その内容はビックテックが担う公共的なインフラ管理の役割を全く理解しないものであり、公正・公平な競争という大義名分を掲げてビックテックを叩き、日本のサービス市場に悪質なサービス提供者を積極的に招き入れる可能性が指摘されている。

ビッグテックは実質的にサイバー空間のインフラ管理の役割を果たしている。サイバー空間は、主権国家による十分な治安統治が確保できている場所ではない。何らかの犯罪行為が行われて、個人情報を含む私有財産が侵害されたとしても、犯人を捕らえて十分な補償を得ることは極めて困難だ。

政府の機能が十分に及ばない環境において、ビックテックは多くの人々が信頼を寄せるセキュリティ機能などの公共財を提供している。ビックテックなどの民間企業が提供する信頼できるサービスが存在しなければ、一般ユーザーは犯罪者が蠢くサイバー空間に無謀なまま踏み込むことになる。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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