コラム

共和党・民主党以外の第三政党、リバタリアン党の予備選挙

2020年05月07日(木)17時00分

米国人から見ても過激な自主独立思想

彼らの主張は米国人から見ても過激な自主独立思想であり、リバタリアン党は毎回の大統領選挙では1%未満の得票しか得ていない。しかし、前述の通り、トランプVSヒラリーという特殊な対立構造の中で、前回の大統領選挙では全米で3%以上の得票を得て大統領選挙の結果を左右した。そして、実は今回の大統領選挙でも決定的な影響を及ぼす可能性が出てきている。

それはジャスティン・アマッシュ下院議員(ミシガン州)が大統領選挙に向けたリバタリアン党予備選挙への立候補を検討している報道がなされたからだ。アマッシュは元共和党議員であり、下院の自由主義傾向が強い保守強硬派グループのフリーダム・コーカスの創設者の一人でもある。その政治的傾向はリバタリアンそのものであり、リバタリアン勢力とは政治的に敵対することが多いトランプ大統領の弾劾に際し、共和党所属時代に公然と弾劾支持の声を上げた人物だ。その言動が度々メディアに取り上げられてきたことから、リバタリアン党の大統領候補者として最低限の知名度がある人物だと言えるだろう。

現在、リバタリアン党の予備選挙では10名程度がノミネートされている。アマッシュ以外の最有力候補者は、リバタリアン思想を啓発する財団創設者であるジェイコブ・ホーンバーガーである。同氏はテキサス生まれ、弁護士であり、思想家として、一見すると共和党に近いリバタリアン右派の候補者のように見受けられる。おそらくアマッシュがリバタリアン党の大統領候補者に名乗りを上げた場合、予備選挙はホーンバーグとの事実上の一騎打ちということになるだろう。

米国の底流に流れるリバタリアン思想の力強さを再確認?

最大のポイントは、アマッシュとホーンバーグのいずれも共和党票の一部を食う可能性がある候補者だということだ。トランプ大統領は共和党支持者からの熱烈な支持を受けているように見えるが、既に共和党から距離を取っている元共和党支持のリバタリアン勢力からは強い反感を持たれたままの状態だ。アマッシュらはバイデンを支持する反トランプ票の一部も取り込むだろうが、共和党側にとってはそれ以上の問題がある対立候補者だと言えるだろう。まさに喉に刺さった魚の骨のような存在である。

まして、新型コロナウイルス問題に起因する政府の巨額の財政出動や都市封鎖などはリバタリアンが最も嫌う政府の政策が実行さている中、共和党・民主党の両党に対してリバタリアンの潜在的な憤りは非常に高まっているものと予想される。11月大統領選挙では米国の底流に流れるリバタリアン思想の力強さを再確認する貴重な機会となるかもしれない。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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