コラム

注目を集めるミレニアル世代の大統領候補ピート・ブティジェッジ

2019年04月11日(木)19時50分

ブティジェッジ市長はカミングアウトしてからボーイフレンド探しを始めた。回想録で本人が告白しているが、30歳を過ぎるまでデートの訓練をしてこなかった彼の恋人探しの悩みが生真面目でブティジェッジの性格を際立たせている。それまで頼みもしないのに娘や親戚の若い女性などを紹介してきた母親の世代の知人は息子や甥を紹介してはくれない。大学の友人たちが紹介してくれるのはニューヨークなど遠距離の者だけだ。

だが、サウスベンド市は同性愛者が日常生活で付き合う相手を簡単に見つけられるような地域性ではないし、市長として地元で探すのは「倫理的な地雷原」である。そこで、「マッチ・ドットコム」や「オーケー・キューピッド」を使って付き合う相手を見つけたところはさすがミレニアル世代だ。ブティジェッジはここでシカゴの教師チャスティンと出会い、2017年に公の場で婚約を発表して2018年に結婚した。

インターネットでのブティジェッジ人気の秘密兵器は夫のチャスティンのツイッターなのだという話もニューハンプシャー州で耳にした。温かい人間性とユーモアのセンスが感じられるチャスティンのツイッターアカウントには約23万人ものフォロワーがいて、カップルがシェルターから引き取った愛犬のトルーマンとバディにも人気のツイッターアカウント(フォロワー4万6000人)がある。これらを通じて、ブティジェッジらはアメリカの保守的な地域の人々にも同性婚も男女の結婚と変わらないのだというメッセージを暗黙のうちに伝えているのである。

best190411-pete02.jpg

ブティジェッジは市民の8割の支持を集めて市長に再選した(筆者撮影)

テレビ出演もブティジェッジ人気に拍車をかけている。通常の報道番組だけでなく、有名なトーク番組の数々、そして、トランプ大統領への強い支持を明らかにしているフォックス・ニュースの番組にも出演している。これまでの政治家は都合の悪い質問をされると、それに答えるふりをして自分の言いたいことだけを語る癖があり、聴衆もそれに慣れていた。ところが、ブティジェッジはどんな質問をされても即座に真正面から実直に答えるのである。視聴者は「彼は、ちゃんと質問に答えている!」と驚いた。「ブティジェッジは現時点で2020年の大統領選で最もホットな候補である」という見出しのCNNの記事も、これまで彼の存在を知らなかった有権者に「なるほど、現在最もホットな候補なのか」と名前を教えるきっかけになった。

それらの影響を受けたのだろう。ブティジェッジの回想録はベストセラーになった。出版社にとっても意外だったのか、3月後半にはアマゾンでハードカバーが売り切れになり、4月9日現在も在庫切れのままだ。そして、全米最大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルのマサチューセッツ州最大の店舗でも4月5日に訪問した時点で残り1冊で入荷の予定が不明だという品薄状態だった。

この人気が実質を伴うものなのかどうかを確かめるために、4月5日にニューハンプシャー州マンチェスター市で行われたピート・ブティジェッジのイベントに出席した。

風が強い摂氏2度の寒さにもかかわらず、会場の美術館の前には開始の3時間前から有権者が列を作って待っていた。詰めかけた報道陣も、他の候補より格段に多い。消防法で300人しか入れない施設なので、せっかく何時間も待ったのに入れなかった人々が500人ほどいたらしいが、ブティジェッジは、家に戻らずに待ち続けた200~300人の有権者に対してまず話をしたようで、会場内の舞台には遅れて登場した。

彼が姿を見せるやいなや、会場全体から「ピート!ピート!」と歓迎のチャントが湧き上がった。私の横にいた60代と思われる姉妹は、まるでロックのショーかのようにブティジェッジに声をかけたり、飛び上がって互いにハイタッチをしたりしている。これも別の候補たちとはまったく異なる反応だ。すでに名前が知られているフロントランナーのバーニー・サンダースやジョー・バイデン元副大統領ならともかく、予備選の初期ではこんなに熱狂的な歓迎はまずない。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シュローダーとアポロ、商品開発で提携 プライベート

ビジネス

中国半導体モンタージュ、香港上場初日に64%上昇 

ワールド

高市首相、食料品の消費税2年間ゼロ「できるだけ早く

ビジネス

三菱UFJAMの「オルカン」、純資産総額が10兆円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 8
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story