コラム

「最後の経済フロンティア」アフリカ...成長と同居する越境テロの脅威

2025年09月02日(火)17時22分

サヘル地域を拠点とするJNIM、ISGSの越境テロ

サヘル地域(サハラ砂漠南縁)は、アルカイダ系のジャマート・ナスル・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)とイスラム国系のイスラム国大サハラ州(ISGS)による越境テロの温床となっている。この地域は、気候変動、貧困、ガバナンスの脆弱性がテロ組織の活動を助長している。JNIMは2017年、マリを拠点とする複数の過激派組織が統合して結成された。

マリ、ブルキナファソ、ニジェールを主な活動範囲とし、地方政府、国際部隊、民間人を標的にしている。JNIMは地域の民族対立や貧困を活用し、地方コミュニティへの浸透を進めている。2023年8月、ブルキナファソ北部での襲撃では50人以上の民間人が死亡。2024年6月には、ニジェールの軍事基地が攻撃され、20人以上の兵士が犠牲となった。

これらの事件は、フランス軍の撤退後の治安の空白を突いたもので、JNIMの越境機動力を示している。JNIMは誘拐、麻薬密輸、違法な鉱物取引で資金を調達し、武器や人員を確保。2025年には、ベナンやトーゴなど西アフリカの沿岸国への攻撃を拡大しており、これまでテロの影響が少なかった地域にも脅威が及んでいる。

ISGSは2015年頃からサヘル地域で活動を開始し、ニジェール、ブルキナファソ、マリの三国国境地帯(リプタコ・グルマ地域)で勢力を拡大している。JNIMと競合しながらも、より無差別で残忍な攻撃を行う傾向がある。2021年3月、ニジェール西部の村への襲撃で137人が死亡。2024年には、ブルキナファソ北部の金鉱山が襲撃され、労働者を含む数十人が犠牲となった。

さらに、2025年7月にはベナンのフランス系企業施設が攻撃されるなど、ISGSの影響が沿岸国にも広がっている。

アフリカ進出を目指す日本企業がとるべき対策

アフリカ進出を目指す日本企業にとって、越境テロのリスクは事業継続性を脅かす重大な課題である。適切な対策を講じることは不可欠である。まず、アルシャバブ、JNIM、ISGSの活動地域や動向を把握するため、現地の治安情報や国際機関のレポートを活用し、専門家によるリスクアセスメントを継続的に実施することが重要である。特に、こういったテロ組織は現地の外資系施設や大使館などを狙うリスクもあるため警戒が必要である。

また、テロ発生時の緊急対応計画を策定し、従業員の避難ルートや安全確保策を事前に準備しておくことが重要である。定期的な訓練やシミュレーションを通じて、危機対応力を高めることも効果的である。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story