コラム

旧道からの県境越えで出会った「廃墟・廃道・廃大仏」

2021年08月26日(木)16時52分

◆通行止めのトンネルに阻まれる

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第一の通行止め箇所。あえなく来た道を引き返した

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左が国道のトンネル。右を行くと迂回路の旧道。迷わず右を進んだが・・・

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ここでも通行止めトンネルに阻まれた。旧道は事実上廃道になっていた

道の駅の先には県境まで2本のトンネルが待ち受けていた。国道のトンネル歩きにうんざりしていた僕は、迷わず迂回路に回った。地図上では、川沿いの県道から旧148号の峠道に上がり、前述の蒲原沢上流の旧国界橋経由で県境を越えられるはずだ。ところが、これが大誤算となる。姫川沿いの県道に下りて、長いスノーシェッドを経て水力発電所を過ぎた所で、通行止めのトンネルに阻まれた。そこまで一本道だったので、来た道を小一時間ほど戻らざるを得なかった。

しかたなく、国道の1本目のトンネルを歩いて再スタート。外界に出ると、2本目のトンネルの脇に「猫鼻温泉」の看板が示す旧道が伸びていた。迷わず旧道を進む。少し歩くと温泉施設に至る小道との交差点にトンネルが出現。この「湯原洞門」を抜けた先に、さらに県境の「国界洞門」があるはずだ。しかし、湯原洞門の入り口は金属製のゲートで封鎖されていた。事実上の廃道である。要するに、旧道経由では県境を越えられないのだ。

いずれの封鎖トンネルも、老朽化のため崩落の危険がありとして、通行止めになっている。バリケード越しにトンネルの中を覗くとバス停やら有害鳥獣駆除用の罠、除雪機器などが置かれているのが見えた。今は道としての機能を失って自治体の備品の仮倉庫になっているようだ。もう必要なくなったのか、「塩の道」と書かれた看板も大量にあった。本来はこの旧道が塩の道として歩行者やサイクラーに利用されていたのだろう。こちらがメインルートだった昭和の昔には、スキーシーズンには峠が渋滞していたとも聞く。しかし、過疎の村の旧道の再整備に予算をかけられる余裕は、もうこの衰退国家には残されていないようだ。

◆旧道からの県境越え

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長野・新潟県境にかかる旧国界橋。長野側で通行止めになっているため車は通れない。奥に見える小屋は新潟県側に建つ土石流監視所

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新潟県糸魚川市の看板。東京からここを目指して歩いてきた

それでも、新潟県側ではまだ旧道が生きているという情報を得た。国道経由で(新)国界橋を渡り、新潟県に入ってすぐの脇道(県道)を上がって行くと、旧道の県境にかかる旧国界橋に出る。僕はどうしても旧道から渋く新潟に入りたかったので、正式な新潟入りは、こちらからとする。旧国界橋は、先述の土石流の要因となった崩落現場近くの蒲原沢上流部にかかっている。橋の長野県側には封鎖された国界洞門があり、新潟県側のたもとには土石流監視所のプレハブ小屋が建っていた。そして、小屋の脇に立つ草むした看板に、かろうじて「新潟県」「糸魚川市」の文字が見えた。この町を目指して2年半歩いてきたのだ。

新潟側の旧道は、事実上の廃道になっている長野県側から見ればよく整備されていた。連続するS字カーブの縁からは、今も河川災害を防ぐための大規模工事が行われている姫川の様子がよく見えた。その俯瞰図を撮っていると、なにやらファインダーのフレーム外から視線を感じた。カメラの望遠レンズで反対方向のコンクリートで固められた急斜面を見ると、ニホンザルの群れの姿が。真っ赤なお尻のボス猿としばらく目が合う。やがてボス猿はゆっくりと後退し、メスや子猿たちを促して、揃って奥へと消えていった。

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旧道沿いの急斜面で、ニホンザルの群れに出会った

◆大仏までもが廃墟

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朽ち果てて雑草で覆われたドライブイン。空白の大看板が虚しい

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こつ然と現れた巨大な後頭部

道が存続しているだけマシとはいえ、途中にあった2軒のドライブインはいずれも廃墟。旧道を通る車はもうほとんどないのだろう。人の痕跡のみが残る猿の楽園である。この旅の地方の街道沿いや裏道で、何度となく見てきた光景だ。そして、今回は廃墟・廃道・廃トンネルだけでは終わらなかった。いよいよ糸魚川の市街地に向かって峠を下り始めると、なにやら巨大な後頭部が出現。地図を見ると「白馬大仏」とあり、旅の最後を大仏様が迎えてくれるのかと胸が熱くなった。

ところが、近づくにつれどうも様子がおかしい。立派なお寺があるのだろうと想像しながら正面に回ったのだが、見えてきたのは昭和っぽいドライブインらしき建物。しかも、蔦が生え、窓ガラスが板で塞がれている明らかな廃墟である。大仏はその裏手に鎮座していたが、周囲の階段や園地は崩れ、草むしていた。

大仏までもが廃墟になっていたことに、さすがに「日本はこの先どうなってしまうのか」とたまげてしまった。僕はこの旅をなるべくぶっつけ本番で歩いている。だから、白馬大仏の予備知識は何もなかった。早速その場でググってみると、目の前のこの大仏は、廃業したホテルが建てた「観光大仏」であることが分かった。高度経済成長期まっさかりの1969年に開眼。台座を含めた高さは23.5mで、当時は世界最大を謳っていたそうだ。でも、失礼ながらそこまでの迫力は感じられない。青白い顔色で唇はピンクに塗られており、幽玄さをたたえる奈良や鎌倉の大仏様と比べると現世的で俗っぽい印象を受けた。

運営会社は2000年に廃業し、ホテル本体の建物は2012年に解体されたとのこと。残された大仏は今も地域住民が限定的に管理しているとのことだが、積極的な維持管理は望めない状況だ。多額の予算をかけて取り壊すか、このまま自然に朽ち果てるのを待つしかない。何十年、何百年先には、アンコール・ワットよろしく、昭和高度成長期の狂騒を示す仏教?遺跡となるのだろうか。

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世界最大?の廃大仏

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周囲の施設も廃墟になっていた

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大仏近くのゴミ捨て場にはブラウン管テレビが。戦後日本が朽ちてゆく

大仏から20分ほど歩き、日没前に大糸線・平岩駅に到着。駅前もやはり、廃墟が並ぶ寂れきった町であった。道の駅のくだりで書いたように、この後、食料を求める小旅行をしたのだが、今回の「徒歩の旅」はここまで。次回は、旅のテーマの一つである「フォッサマグナ」の核心を探りに、糸魚川の市街地に向かう。

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平岩駅前の廃墟

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ゴールの平岩駅のホームで

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今回歩いたコース:YAMAP活動日記

今回の行程: 南小谷駅 → 平岩駅(https://yamap.com/activities/12374380)※リンク先に沿道で撮影した全写真・詳細地図あり
・歩行距離=20.7km
・歩行時間=8時間20分
・上り/下り=678m/924m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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