コラム

旧道からの県境越えで出会った「廃墟・廃道・廃大仏」

2021年08月26日(木)16時52分

第28回 南小谷駅 - 平岩駅
<令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた。>

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの27回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「軌跡マップ」より

◆トンネルが連続する国道を避けて・・・

約2年半かけて東京から日本海を目指して歩き継いで来たこの旅も、ゴール間近だ。今回は、長野県最後の特急停車駅、南小谷(みなみおたり)駅から歩き始め、新潟県境を目指す。ずっと日本列島の東西の境目にある大地溝帯、フォッサマグナに沿って歩いているのだが、このあたりの地形はその西端の糸魚川静岡構造線の真上ということになる。

実際に歩いてみると、北アルプスから日本海に注ぐ姫川が、ちょうど糸魚川静岡構造線を視覚的に認識できるような形で谷底を流れている。その川沿いを通る国道148号をまっすぐ歩いていけば、目指す日本海に到達する。

ただ、このあたりは中部山岳地帯から日本海に下りていく急峻な地形になっていて、国道148号は長いトンネルの連続になっている。そして、148号のような片側一車線の「3桁国道」のトンネルには、たいてい申し訳程度の歩道しかついてない。148号とは3回前の大町市からの付き合いだが、過疎地とはいえそれなりに交通量がある。そんな国道をトンネルを何本も歩いて抜けるには少々勇気がいる。それ以上に、黙々と暗いトンネルの中を歩くばかりではつまらない。そのため、今回はできるだけ国道のトンネルを迂回する旧道を探しながら県境を目指すことにした。

A1_07153.jpg

南小谷駅前にかかる橋から眺める姫川。目指す日本海に注ぐ

A1_07157.jpg

南小谷の国道148号。この先、トンネルを避けて迂回路を探しながら進むことにした

◆川向うの旧街道を歩く

A1_07215.jpg

橋を渡って川向うの旧千国街道へ

現代の148号と対をなす旧街道は、日本海から信州に至る「千国(ちくに)街道」だ。おもに日本海の塩を信州の山間部に運んだことから「塩の道」とも呼ばれる。日本海側の起点が目指す現在の新潟県糸魚川市、信州側の端が「塩の道の終点」を意味する長野県塩尻市である。旧街道沿いには今も、歴史の名残りを感じながらハイキングやサイクリングをしたい旅行者向けに「塩の道」の看板が立っている。

南小谷駅から続く国道沿いの家並みが途切れたあたりに、古めかしい馬頭観音があった。その先の脇道への交差点に行くと、「〇〇道方面」と書かれた錆びついた看板。地図と照らし合わせて姫川にかかる橋を渡った川向うが旧千国街道だと判断し、国道を離れた。

A1_07223.jpg

千国街道沿いには古い野仏や石碑が点在する

A1_07245.jpg

旧街道の風情を残す集落をランナーが走り抜けていった

その判斷は正しかった。橋を渡った先に「塩の道・千国古道」の標識があり、歴史を感じさせる日本の古き良き夏の街道風景が広がった。道と平行して単線の大糸線の線路があり、まだローカル線の鉄道旅行が盛んだった昭和の風情も同時に感じることができた。

しかし、その旧道も小一時間ほどの歩きで再び国道に合流。目の前にトンネルの入り口が現れた。地図を見ると大糸線の中土駅に至る迂回路があったのだが、ここは少し時間と距離を稼ごうと、また、一本くらいは歩いてみようと、1km余りのトンネルを突っ切ることにした。細い歩道に上がって中に入ると、照りつけていた真夏の日差しがスッと消える。しかし、だんだんと埃と排気ガスの息苦しさに気分が沈み、轟音と共に背後から迫ってきて肩を掠めていく大型トラックにビクビクしながら、黙々と歩を進めるのみである。やはり、国道のトンネルは間違いなく歩行者向きではない。

A1_07253.jpg

単線が伸びる大糸線を渡って国道に合流

A1_07369.jpg

大型トラックが肩をかすめる息苦しいトンネルを黙々と歩いた

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ビジネス

逮捕475人で大半が韓国籍、米で建設中の現代自工場

ワールド

FRB議長候補、ハセット・ウォーシュ・ウォーラーの

ワールド

アングル:雇用激減するメキシコ国境の町、トランプ関

ビジネス

米国株式市場=小幅安、景気先行き懸念が重し 利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 6
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 9
    ハイカーグループに向かってクマ猛ダッシュ、砂塵舞…
  • 10
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨッ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story