コラム

八ヶ岳山麓、諸星大二郎『暗黒神話』の地で縄文と諏訪信仰に触れる

2020年02月26日(水)15時00分
八ヶ岳山麓、諸星大二郎『暗黒神話』の地で縄文と諏訪信仰に触れる

撮影:内村コースケ

第16回 富士見高原スキー場 → 白樺高原
<平成が終わった2019年から東京オリンピックが開催される2020年にかけて、日本は変革期を迎える。令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

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「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

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これまでの15回で実際に歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

◆富士山に見送られ、縄文文化の核心地を目指す

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富士見町から見る富士山。日の出と共に勇壮な姿を現した

昨年2月10日に東京湾をスタートして、神奈川県の北端をかすめてから山梨県をひた歩き、15回目の前回、ついに4都県目の長野県に入った。ゴールの日本海まであと一息と言いたいところだが、この長野県が広い。今日一日歩き終えれば、やっと全行程の約半分となる予定である。

「新時代の日本を愚直に歩いて見つめ直したい」というこの旅に、なぜ、東京湾から新潟県の糸魚川市を目指すこのルートを選んだのか。理由は3つある。
(1) 日本を東西に分けるフォッサマグナに沿った、地理的に本州のほぼ中央を貫くルートだから。平均的な日本の姿を見るために列島を太平洋から日本海に向けて横断するのなら、単純に真ん中を歩けば良かろうという発想。
(2) 日本固有の文化のルーツは縄文時代にある。縄文遺跡が豊富で関連した諏訪信仰もある八ヶ岳・諏訪湖周辺で、その一端に触れたい。
(3) ルートのほぼ中間地点に、筆者が東京から移住した山荘がある。客観的な見聞に自分の個人的な体験や思いを合わせた方が記事に厚みが出るだろうと考え、ある程度土地勘があるルートを歩きたかった。そこで、今も仕事場がある東京からスタートして移住先の諏訪地方を通過する、何度も車で往復しているこのルートを選んだ。

今回は、八ヶ岳の西側の山麓を南から北に上がり、(3)の白樺湖・車山の少し下にある自宅を目指す。途中のハイライトは、(2)の縄文文化の核心を突く「尖石遺跡」である。この諏訪地域に根付く日本人のルーツに思いを馳せながら、自分が根を下ろす自宅を目指すという、なかなかいい趣向の歩き旅になりそうである。それを完遂するには、これまでで最長の30km弱を歩かなければならない計算だ。そのため、スタート地点(前回のゴール地点)の富士見高原スキー場を、いつもより早く、夜明けとともに出発した。「富士見」と名がつく地名は首都圏はじめ至る所にあるが、今もくっきりと富士山が見える場所は少ない。その点、この長野県富士見町から見る朝焼けの富士山は、町名に恥じない見事な姿であった。

◆森の中に消えた江戸時代の寒村

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脇道に逸れて林道へ。極寒の朝の空気が、太陽が昇ると共に緩んでいった

スタート地点の標高は1269m。気温は氷点下10度を優に下回っていただろう。自分の生活圏内とはいえ、真冬の早朝の高原を歩くのは酔狂としか言いようがない。それでも、刻一刻と高くなる太陽のぬくもりをじわじわと感じながら、『日本横断徒歩の旅』初の雪道を進んだ。ひねくれ者の僕の悪い癖で、幹線道路を避けて脇道へ脇道へと進むと、いつしか砂利の林道になっていた。

耕作放棄地らしい広い原っぱを過ぎると、薄暗い森の入り口に「稗之底古村址」と書かれた看板が現れた。どうやら、このあたりは、かつて稗之底(ひえのそこ)村という集落だったらしい。看板の手前には旧村域と外界を分ける結界のような縄が張られ、その先には鹿よけの電気柵が張り巡らされていて分け入ることができない。結界の向こうの薄暗い森を恐る恐る覗き込むと、何やら曰くありげな大きな石がぽつんとあるのが見えた。縄文時代から続く巨石信仰の名残りだろうか。あるいは、ただの自然の石か。いずれにせよ、人の暮らしがあった痕跡は見当たらない。

そんな周囲の環境や、「稗之底」といういかにもおどろおどろしい地名から、都市伝説にありがちな「呪われた村」を連想させる。

看板の説明文によれば、八ヶ岳の直下にあるこの地は極寒で作物が育ちにくく、暮らし向きは非常に厳しかったという。何度も廃村の危機を迎えながらなんとか村は維持されたが、明暦年間(1655-58)についに完全に放棄されたという。旧稗之底村民は少し山を下って、今も富士見町の一地区に数えられる旧立沢村・乙事(おっこと)村に移住。今も旧稗之底村出身者の家系が受け継がれているという。こうして看板を建てるなどして語り継ぐ努力がなされなければ、稗之底村のような歴史の片隅の存在は「なかったこと」になっていただろう。

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稗之底村跡。結界のような縄の先に、江戸時代に消滅した村の歴史を語り継ぐ看板が立つ

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。

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