コラム

NYのダム、ウクライナの変電所...サイバー攻撃で狙われる制御システム

2016年01月08日(金)12時30分

 この実験で使われた手法が、本当に実際の制御システムに対して使えるのかどうかは議論の余地がある。実験当時の制御システムで使用可能だったとしても、この実験の後にDHSは警告を業界に出しており、対応が進んでいる可能性が高い。また、近年新しく導入されている制御システムははじめからセキュリティを考慮に入れて設計されている。

イランが狙う米国のダム?

 ロシアのシベリア地方で、モンゴル国境に近いハカス共和国にサヤノ・シュシェンスカヤ水力発電所と呼ばれる世界で9番目の大きさを誇る水力発電所がある。2009年8月17日、ここで爆発のような大音響とともに、巨大タービンが外れるという大事故が起こり、75人が亡くなった。

 当初、チェチェンの反政府グループが犯行声明を出したため、サイバー攻撃の可能性が疑われた。つまり、制御システムのコンピュータに不正侵入し、破壊を引き起こしたのではないかと考えられた。しかし、その後の事故調査では、タービンを止めるボルトの破損が原因とされている。

 それでも、こうした形のサイバー攻撃が行われるのではないかと考えさせる重大事故になった。

 その後、2013年に米国ニューヨーク州のダム管理システムがサイバー攻撃を受け、水門を制御される事態になっていたことが2015年12月になって分かった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、関係者はイランのハッカーの仕業だったと話している 。

 この事件の捜査に詳しい元米当局者によると、サイバー攻撃を受けたのはニューヨーク州ライ・ブルック村近郊にあるボウマン・アベニュー・ダム(Bowman Avenue Dam)である。写真で見る限り、ダム自体はとても小さなもので、シベリアのサヤノ・シュシェンスカヤ水力発電所とは比べものにならない。

 また、それほど高度な手口は使われておらず、不正アクセスを試す目的で仕掛けられたと当局は見ている。当時は、イランの核施設に対するスタックスネット攻撃への報復として、イラン系の攻撃者がJPモルガン・チェースなどの米国の金融機関を狙ったとされるサイバー攻撃も発生していた。ハッカーはボウマン・アベニュー・ダム全体のシステムに侵入することはできなかったが、水門を制御することは可能だったという。

 ライ・ブルック村の市長によると、ダムは降雨時に水流をコントロールして下流の洪水を防ぐ役割を担っている。ダムの制御に使われていたのは業界標準のソフトウェアだったという。ダムへのアクセスは、携帯電話のモデムで行われたとされている。

 しかし、おそらく、ボウマン・アベニュー・ダムは予備調査であり、本格的なサイバー攻撃は、より大きな被害が想定されるダムに対して行われることになるだろう。

今一歩近づく制御システムへのサイバー攻撃

 2015年12月23日、ウクライナの西部の都市イヴァーノ=フランキーウシクで140万世帯の停電が発生した。報道では、ウクライナのCERTであるCERT-UAが、何らかのサイバー攻撃によって停電が引き起こされたことを確認しているという。ウクライナとの間で問題を抱えているロシアのインテリジェンス機関の関与が疑われている。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国中銀、政策金利2.50%に据え置き 予想通り

ビジネス

JERA、米ルイジアナ州のシェールガス権益を15億

ビジネス

サイバー攻撃受けたJLRの生産停止、英経済に25億

ビジネス

アドソル日進株が値上がり率トップ、一時15%超高 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story