コラム

赤ちゃん「泣いてもいいよ」は口で言おう──ステッカーまかせで失われる自然なコミュニケーション

2019年11月15日(金)18時15分
西村カリン

全国の自治体などが配布している「泣いてもいいよ!」ステッカー HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

<「泣いてもいいよ」ステッカーは、外出時に泣きやまない赤ちゃんと頭を悩ませる親の救世主にはなり得ない。その理由は?>

8月中旬に突然、フランス人の同僚からメールが来た。「この仕組みをどう思う?」という質問で、新聞記事が添付されていた。記事の見出しは「赤ちゃん『泣いてもいいよ』ステッカー広がる」だった。

私はフランス人で、子供が2人いる。長男は7歳で次男は2歳。当然、日本での子育ての問題に非常に関心がある。電車やお店で子供が泣くと、言うまでもなく困ってしまう。どうすれば泣きやむかは全ての親の悩みだろう。周りの人が理解してくれれば、ある程度安心しながら冷静に子供の要求に対応できる。親が安心しない限り、赤ちゃんは泣きやまないものだ。

では、どうしたら周りの人の理解が得られるか。その1つの答えとして登場したのが「泣いてもいいよ」ステッカーだ。赤ちゃんが泣いてパニック状態になった親に、「泣いてもいいよというメッセージ」を伝えるのはとてもいいことだと思う。ただ、なぜステッカーが必要なのだろう。スマートフォンの裏に貼ったステッカーで伝えるのはふさわしいことだろうか。私は、そうは思わない。

なぜなら、人間には口でコミュニケーションする能力があるからだ。相手を見ながら「泣いてもいいよ」と口で言うのが、間違いなく最も安心させる方法。親が安心したら、赤ちゃんも安心できる。赤ちゃんは周りの人々の行動にとても敏感だから。

「泣いてもいいよ」はそもそも赤ちゃん向けのメッセージだ。でも大人がステッカー経由でコミュニケーションをしてしまったら、赤ちゃんには分からない。それに、自分のスマホにステッカーを貼った人は、ステッカーがあるから何も言わなくていい、自分の役割はもう果たしたと思ってしまうリスクがあるのではないか。

逆に、ステッカーを貼っていない人はイライラしているのではないかと、親が不安を感じてしまうこともあり得る。

LGBT(性的少数者)の問題も同じではないか。最近、一部の企業はLGBTに対する差別をなくす対策を取っていて、その1つとして社員が「LGBT Ally」と書かれたステッカーを自分のパソコンに貼る仕組みがある。LGBTの人に、「私はAlly(支持者)で、差別しない」というメッセージを伝える方法だが、本音は違っても、圧力を感じてステッカーを貼る人もいるだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中東情勢深く懸念、エスカレーションにつながる行動強

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story