コラム

ファスト・ファッションの終焉? ヨーロッパの真の変化への積極的な取り組み

2020年07月21日(火)14時50分

ZalandoのCEO、ルビン・リッター氏による持続可能性戦略のプレス発表 (C)Zalando SE/Daniel Hofer

<ベルリンは今、持続可能性を追求するファッションの中心地になっている。そして、ファッションだけでなく、あらゆる分野のデザイナーが持続可能性と向き合っている......>

ファスト・ファッションの終焉?

ベルリンは今、持続可能性を追求するファッションの中心地になっている。パリやミラノではなく、今や世界の先端を行くと評価される「ベルリン・ファッション・ウィーク」のテーマが、「持続可能なファッション」であるのもうなずける。環境保護を使命とする多くのデザイナーが、ベルリンに惹かれるのには理由がある。

2008年の株式市場の暴落で、低価格品の過剰消費が起こり、人々の間では、「節約しても意味がない」という感覚が生まれた。同時に、ファスト・ファッションの急速な浸透は、人や環境に与えるリスクを増大させた。コロナ危機の前から、ピークと陥落に向かっていた業界の軌跡は、今、幻滅の段階に入りつつある。多くの人々が、これまでの過剰な消費は終わったと感じ始めているからである。

安価で季節ごとに捨てられるファスト・ファッションの衰退が予測される中、問題を抱えた業界は緊急な変化を必要としている。これからは、個人の内面の浄化や、環境保護の欲求に対応するファッションにシフトすると考えられている。ベルリンはその変化を牽引する街である。

リサイクルとオーガニック

スペインのブランドECOALF(エコアルフ)のファッションのルーツは、ゴミ捨て場や世界最大の廃棄場である海にある。推定によると、年間480万〜1270万トンのプラスチック廃棄物が毎年排出されている。エコアルフはその一部を海から取り出し、Tシャツ、ジャケット、パンツ、バックパックの製造に使用する。ペットボトルは最初に粉砕加工され、衣服を織るポリエステル糸が作られる。プラスチックをリサイクルするファッションは、2018年ごろから急速に世界化したトレンドだ。エコアルフは2年前、ベルリンに2店舗をオープンした。「第二の地球はない(Because there is no Planet B)」というスローガンは、Tシャツから店舗のディスプレイなど、いたるところに提示されている。

49359271284841_n.jpg

ベルリンのエコアルフ・ショップ。「第2の地球はない」がエコアルフのメッセージである 撮影:武邑光裕

52349611149395_n.jpg

エコアルフの店内。すべての製品はペットボトルに由来する。顧客は常に環境への配慮を意識することになる 撮影:武邑光裕


一方、ベルリンの中心部、ハッケシャー・ホーフにあるwunderwerk(ヴンダーヴェルク)のコンセプトは、原材料の栽培から、適正な労働条件、水やエネルギーの消費まで、生産チェーン全体が透明で持続可能なものでなければならないという原則に貫かれている。ヴンダーヴェルクは、特にジーンズの洗浄水とエネルギーの消費に関して、妥協することのない新しい基準を設定している。従来のジーンズの生産では、約40〜160リットルの水が洗浄に使用されるが、ヴンダーヴェルクのジーンズの消費量は0.7〜10リットルであり、有毒な化学物質で水を汚染することもない。

09879102348836_n.jpg

ベルリンのファッション・スポット、ハッケシャー・マルクトにある「ヴンダーヴェルク」の店舗の外観 撮影:武邑光裕

3563552273857507640_n.jpg

ヴンダーヴェルクの店内。商品が完全にオーガニックで、ジーンズの洗浄などに過分な水や化学薬品を使用していないことが明示されている 撮影:武邑光裕


ヴンダーヴェルクの製品には、ポリエステルなどの石油ベースの材料は、リサイクルされるかどうかにかかわらず使用されていない。ブナやユーカリの木で作られた革新的で、環境にやさしい再生繊維も品質を支える不可欠な要素だ。これらの徹底したオーガニック素材へのこだわりが、エコアルフとは異なる。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story