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Editor's Note

ワシントン・ポストのNewsweek売却について

2010年05月09日(日)22時52分


 ニューズウィーク(と日本版)はどうなってしまうんですか? この3日間、あちこちで人にそう聞かれた。結論から言うと、Newsweekとニューズウィーク日本版はビジネスとしてはまったく別物であり、ニューズウィーク日本版がどうにかなることはありません。

 もちろん、編集面で考えれば、長期的に何の影響もないかどうかはまだわからない。報道されている通り、5月5日、ワシントン・ポストが事業リストラの一環として、傘下のNewsweekを売却する方針を発表した。ジャーナリズムを希求するメディアである点は変わりないにしても、誰が新しいオーナーになるかによって、ニュースメディアとしてのあり方は変わるかもしれない。

 そもそも今のNewsweek自体、これまでのメディアとしてのスタイルや編集方針は1961年にワシントン・ポストに買収されて、それまでの独立資本からポスト系列となったことが影響した面が少なくない。後にポスト紙の編集主幹としてウォーターゲート事件の報道で知られることになるベン・ブラッドリーに勧められ、当時のポスト社の社主フィル・グラハムがNewsweekの買収を決断したのは、国際取材の充実とニュース報道の多様さの重要性を理解したからだった。

 結果的にそれ以降のNewsweekは、新聞が断片的にしか伝えない海外ニュースや世界情勢をより長いスパン・より広い視点からとらえ、新聞とは異なる「読み物」としての面白さもそなえた長文の記事で読者に提供しようとするようになった(Newsweekの社内では記事は"article"と言わず、常に"story"と呼ぶ)。一般的なアメリカ人は自分の住む町や米国内の他の地域を知るために新聞を読み、アメリカという国が抱える課題や外国のこと、世界全体のことを知るためにNewsweekかTIMEを読む、そういう期待のもとにリビングやトイレで読まれるという前提で記事を書いていると、昔Newsweekの記者に聞いたことがある。

 ニュースが紙やテレビだけでなくパソコンやモバイル端末を通じて伝わる時代に、そうしたスタイルや方針を大きく変えていく必要があることは当然と言えば当然だ。オーナーの交代はNewsweekがそうした環境変化を反映したニュースメディアにさらに進化するための機会となるであろうし、そうなることを願っている。

 ちなみにニューズウィーク日本版は、アメリカのNewsweekとはまったく別に、すでにそうした進化を少しずつ果たしている。紙の雑誌、独自の記事をデイリーで提供するウェブサイトだけでなく、雑誌の誌面をそのままパソコンで読めるデジタル版を3年前にスタートした。現在はiPhoneや一部の携帯電話でも雑誌をそのままの誌面で読めるし、iPadでも当然同じサービスを提供していく予定でいる。こうしたサービスは米国版ではまだ導入されていない。

 これらとて、"ニュースメディア"が進化していく過程においてはまだまだ序の口だと、私は思っている。お気づきのように、この原稿でも私はNewsweekやニューズウィーク日本版を「週刊誌」とは一度も呼んでいない。4年前にニューヨークの米国版編集部を訪ねたとき、「これからのNewsweekはニュース週刊誌ではなく、単にニュースメディアと呼ばれる存在になる」と言っていたのは他ならぬ米国版のジョン・ミーチャム編集長だったし、日本版はその言葉を米国版に先駆けて実践してきた。

 ニューズウィークには米国版のほかに、英語での国際版(太平洋版、ヨーロッパ版、中南米版)、現地語でのローカル版(日本版、韓国版、ポーランド版、ロシア版、アラビア語版、スペイン語版、アルゼンチン版、トルコ版)がある。12のエディションはニュースメディアとしてのNewsweekの基本的な理念は共有しつつ、それぞれ独立した編集方針のもとに週刊の雑誌やウェブで記事を送り出し、それぞれの国・地域の読者ニーズや、ネットやデジタルデバイスの普及に応じた新しい展開を進めている。米国版がワシントン・ポストの元を離れようと、そうした取り組みが必要なことには変わりない。

 紙の雑誌だけでなくウェブで、ツイッターで、iPadで、あるいはこれから出てくるであろうまた別な何かを通じて人々がニュースを求め、探し、情報を消費していく時代に何ができるのか、何をしなければならないのか。Newsweekの売却は、ニューズウィーク日本版がそのことを今まで以上に突き詰めて考え、どんどん実行に移していくためのチャンスになるかもしれないと思っている。


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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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