コラム

トランプと習近平が築く「高い壁」

2016年03月23日(水)18時50分

 昨日ベルギーの首都ブリュッセルで発生し、世界を震え上がらせた連続爆破事件はすでにISIS(自称イスラム国、別名ISIL)が犯行声明を出した。今年1月、アメリカ大統領選の共和党指名レース候補者ドナルド・トランプは貧困地区がテロリストの温床となっているブリュッセルが「地獄のような場所」だと批判した。彼の批判はベルギーメディアに嘲笑されたが、その懸念は2カ月後に現実になった。

 華人にとって、トランプは複雑なビジネスマンだ。私の華人の友達の中には彼の保守派の立場が好きな人もいれば、極端な言論を毛嫌いする人もいる。耐えがたいのは強権好きな傾向だ。メディアの指摘によれば、彼は90年代に天安門事件について取材を受けた時、中国政府が強圧的に「騒乱」を鎮圧し安定を守った、という認識を変えなかった。それに比べてアメリカ政府は弱々しすぎる、と彼の目には映ったようだ。

 華人の弱々しい抗議の声は、アメリカ自身が直面する問題の複雑さゆえ、すぐにかき消された。アメリカ人が関心を持つのは、トランプが自分たちの何を変えてくれるか、という点だ。トランプいわく、WTOの規定を守らない中国のせいで、米中貿易のメリットを上回るアメリカ人の大量の雇用喪失というデメリットが生まれている――。

 またアメリカはヨーロッパと日本などの地域に駐留軍を派遣して世界の警官役を担ってきたが、ヨーロッパがこれを決してありがたく思わず、沖縄の人々の反対の声も大きいことにアメリカ国民は不満を感じている。若い兵士の生命に犠牲にして、大量のカネを浪費して、得られるものは何なのか、と。

 アメリカで新たな孤立主義が台頭し始めたのには理由がある。もしトランプが本当に大統領に当選して選挙公約を実現したら、アメリカは自国の高い壁の中に引きこもることになるだろう。世界の警察官としてのアメリカがいなくなり、ヨーロッパと極東の防衛が放棄されたら、ISISや中国共産党、ロシア、北朝鮮のような危険な政権に脅される国に自分たちを守るすべはあるのだろうか。

 中国はかなり前からネット上に高い壁を築き、国民が世界と自国の真相を知ることを妨害してきた。景気後退が深刻化するにつれ、中国で数年内に社会危機が起きる可能性が徐々に大きくなっているが、習近平政権はそれを見越してドル流出と、公務員の海外旅行の自由を制限。増えるばかりのデモと抗議活動に対応するため、弁護士とNGO組織、政府と意見の異なる人々への前例のない弾圧を続けている。また経済の難局を切り抜け、崩壊寸前の中国をコントロールするため、習近平は計画経済への回帰を選択しようとしている。未来の中国は北朝鮮のような閉鎖的な国家になるかもしれない。一方、アメリカではメディアこそ激しいトランプ批判を繰り広げているが、ISISのヨーロッパでのテロが続くに連れ、トランプの孤立主義政策を支持する有権者が増えている。

 2つの目的の異なる高い壁が2つの国家の果てしなく長い国境線に築かれようとしている。1つは国民の行動の自由を妨げるものだ。習近平は中国の人権問題を非難する人に対して、堂々とこう語っている。「これは我が国の内政問題だ。あなた方には関係ない!」。もう1つの壁は人々が自由にアメリカに入ることを拒否するものだ。トランプは世界に向かってこう語った。「それはあなた方の問題だ。われわれには関係ない!」

 この2つの壁はそれぞれの国家の未来だけでなく、日本の未来に影響しかねない。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中

ビジネス

円高につながる金融政策、「一つの選択肢」=赤沢経産

ワールド

アングル:中南米系の共和党支持に動揺の兆し、民主党
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 9
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 10
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story