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Editor's Note

アメリカから見た普天間劇場

2010年05月19日(水)23時23分


 米軍基地の問題についてアメリカはどう思っているんでしょうか。テレビ番組などでそう訊かれることがよくあるが、答えは「アメリカ」が何を指すかによって変わってくる。ホワイトハウスか。国務省か。国防総省か。海兵隊か。議会か。それぞれ思惑も優先順位も、判断基準も違う。外交問題や経済政策でもそうだが、アメリカとひとくくりにして「こう思っている」と言えることは実際にはほとんどない。

 在外米軍についてワシントンの官僚が実情をろくに把握せず、現場の制服組が途方に暮れたりブチ切れたりすることはしょっちゅうある。中東政策はワシントンの中でも常に意見が分かれ、とくにブッシュ前政権ではホワイトハウスに各省、副大統領、ネオコン、中東ロビーが入り乱れて収拾のつかないことになっていた。

 普天間問題については、アメリカ側の当事者、利害関係者、外野のグループは今、どう思ったり感じているのだろうか。それぞれの胸の内を勝手に想像してみると――


■オバマ政権(ホワイトハウス)

 この程度の問題で同盟関係が揺らぐのは困る。日本が重要だからではなく、今の日米同盟は中国に対するカウンターバランスとして大きな意味を持っているから。現に最近、普天間のこじれをあざ笑うかのように中国軍の船が日本の近海をうろうろし始めたではないか。日本のように付き合いの長い同盟国との関係が悪化すると、共和党や保守派のうるさい連中がガミガミ文句を言うのも困る。

 それより厄介なのは、これがネックとなって太平洋地域の米軍再編のタイムテーブルが狂うこと。QDR(4年次国防計画見直し)を発表したばかりというのに、政治的にも予算的にもコストが高いのでそれは避けたい。


■民主党全国委員会

 つべこべ言ってないで、何でもいいから早く決着をつけてくれ。中間選挙まで半年を切ったというのに、医療保険制度改革の不人気もあって見通しはひどく暗い。外交ではただでさえイスラエルとの関係悪化、イランを制御できないことで批判を浴びている。このうえ対日関係まで民主党の失点にカウントされるのは勘弁してほしい。


■国務省

 ハトヤマもオカダも何を考えているのかさっぱりわからない。基地問題、沖縄の問題がこれまでの経緯からとても難しいしがらみを持っていることは理解できる。歴史的な政権交代を達成したのだから、この問題にも手をつけようという気持ちもよく理解できる。

 とはいえ、これが安全保障に関わる問題という認識があるのだろうか。政治的なリスクをなくすために地元への配慮は当然必要だが、安全保障は国の専権事項という冷徹な前提で取り組まなければ事が進むはずはない。日本のどこだろうが、国が「ここ」と決める以外ない。

 中台関係が以前より安定し、インドやブラジルのプレゼンスが高まり、朝鮮半島も当分片がつきそうにない状況で、日本との間がぎくしゃくしてしこりが残るようなことは地政学的に極めて好ましくない。自民党時代なら日本のほうから「そろそろガイアツをお願いします」と言ってきたかもしれないが、そういう様子もないし、どうしたものか...。


■国防総省

 官僚としてのキャリアの半分以上をCIAとNSC(国家安全保障会議)で過ごし、対イラク戦略の見直しを路線化した超党派のベーカー委員会にも加わったゲーツ長官から見れば、「こんな大局観の欠けた議論に関わっているヒマはない」。

 日本側の代替案さえまとまらない今の状況で、国防総省として4年前の日米合意から踏み出す理由は何一つない。普天間の移転がなければグアム移転もない。基本的に国務省マター。カート(・キャンベル国務次官補)、とりあえずよろしく。


■海兵隊上層部

 現役の総司令官も含めて「基地が沖縄である必要はない」と何度も言っているのに、なぜか日本のマスコミはあまり大きく取り上げないし、政治家も無関心。再編の件では、ラミー(ラムズフェルド前国防長官)の気まぐれにさんざん振り回されてきた。いい加減、腰を落ち着けたい。

 戦闘部隊とヘリ拠点を切り離すなんて笑えないジョーク。とっぽいアーミーが主体のドイツや韓国の米軍と一緒にしてもらっては困る。本気でそんな案を持ち出すならキレますよ。プライムミニスターが言った「腹案」が何かは知らないが、今だって訓練は本土のあちこちに出張してやっている。どうしてもっとまともな代替案が出てこないのか。
 

■在沖縄部隊の一部の兵士

 よその駐留先に比べて沖縄はパラダイス。だから基地はいつまでもあってほしい。まあグアムでもいいだろうけど。テニアン? それってどこ? ビーチあるの?


■米議会上院

 (去年) このご時世にグアム移転費4億ドル? とんでもない。しかも日本の中で何かもめ始めたじゃないか。そんなものは大幅カット。

 (今年) ホワイトハウスがどうしてもと言うから削減分を復活させたし、ベトナムの英雄ジム(・ウェブ上院外交委員会東アジア・太平洋小委員会委員長、元海兵隊員)ももう少し日米政府の努力を見守ってほしいと言うから、2011会計年度予算でも政府案通りのままで可決した。議会の圧力で移設が潰れたと言われるのも困るし。ただ、予算をつけた以上、話がまとまらなくて執行されなかったら政治責任を追及するからね。


■保守派・右派・共和党

 真面目な話、日本との軍事的な同盟関係にネガティブな影響が出るのは困る。中国や北朝鮮を利してどうする。でも、とりあえずはオバマを口撃する材料として使わせてもらおう。


■米メディア

 おや、あの大人しい日本人が何万人も集まってデモをしているぞ。これは珍しい。何で騒ぎになってるのかわからないが、とりあえずニュースに入れておこう。

 オキナワ? 米軍基地? あ、そう。長いリポートはとりあえずいいよ。財務大臣が変わったら連絡してくれ。

 

 

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竹田圭吾

1964年東京生まれ。2001年1月よりニューズウィーク日本版編集長。

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