最新記事

日中関係

安倍首相はよく耐えた!

2018年10月27日(土)21時23分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

10月26日、日中首脳会談における安倍首相(右は世耕大臣)Nicolas Asfouri-REUTERS

李克強は「日本は戦争責任を深く反省せよ」と言い、習近平は上から目線で笑顔を見せなかった。他国の首相への笑顔の振りまき方と比べず、習近平が安倍首相に顔を背けなかっただけで喜ぶ日本のメディアが哀しい。

他国の首脳と会った時の習近平の笑顔

日本の多くのメディアは、2014年11月14日の北京で開催されたAPEC首脳会談において安倍首相と習近平国家主席が会談した際の無礼極まる顔と比べて、「なぜ、ここまで表情が穏やかになったのか」、中には「にこやかになったのか」とさえ表現するトーンで今回の日中首脳会談の習近平の表情を伝えている。

まるで習近平が笑顔でも見せたような印象を与えるが、笑顔になっているかどうか、まず今回の日中両首脳の表情を見てみよう。

10月26日付けの中国共産党新聞網の写真をご覧いただきたい。習近平は厳しい表情を崩していない。顔を背けていないだけで、国賓として受け入れておきながら、安倍首相に失礼だろう。

10月27日の中央テレビ局CCTV(新名称は「中国の声」)はどうだろうか。やはり仏頂面で、安倍首相は「どうしたものか」と困惑しているように見受けられる。

それなら他の国の首相とはどうだろう。

まず2013年9月5日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されたG20でロシアのプーチン大統領と会った時の笑顔。互いに信頼に満ちて、相手の目をしっかり見ており、習近平は「笑顔」だ。しかも相手を尊敬しているのが明らかに見て取れる。

同じくプーチンとの会談。2013年10月7日にインドネシアで開催されたAPEC首脳会談の際の自信に満ちた満面の笑顔だ。

冒頭に書いた2014年11月に北京で開催されたAPEC首脳会談でのプーチンとの握手は、習近平の方がまるでへつらわんばかりの笑顔をプーチンに見せている。実に低姿勢だ。

しかもこれは同じ2014年APEC北京会議でも、開催前の2014年11月9日にプーチンとは会い、安倍首相とはAPECが終わった最後の日の11月14日に会っている。

驚くべきことに首相ではなく、ロシアであるなら、外相とでさえ、習近平は実ににこやかだ。2018年4月23日に新華網が伝えた習近平国家主席とロシアのラブロフ外相との会談をご覧いただきたい。これを「笑顔」というのである。

習近平が「誰に、どの程度の笑顔を送ったか」というのは、非常に重要なシグナルだ。

トランプ大統領との握手は、ご紹介するまでもないだろう。習近平は満面の笑顔をふり注いだだけでなく、トランプを皇帝扱いするほどのへつらいぶりだった。

大国だけではない。たとえばカザフスタンのナザルバエフ大統領に対しても、2017年05月14日の新華社報道をご覧いただきたい。

これが普通の儀礼である。

だというのに、安倍首相に対しては、何たる態度か!

安倍首相は、よくぞ耐えた!

どんな形であれ、日本が「一帯一路」に参画するのは反対だし、中国の戦略にまんまと嵌っていることに関しては警鐘を鳴らし続けるつもりだ。安倍首相はおそらくトランプ大統領とは連絡し合っているとは思うが、それでも日本の計算通りには絶対にいかないと危惧している。

しかし一方では、中国の中央テレビ局CCTVで、延々と流し続けた安倍首相の苦渋に満ちた表情を見ていると、「よく耐えたなぁ...」と感心せざるを得ない。

その映像を共有したいと思い、かなり時間をかけて探したが出て来ないので、やむを得ず文字で表現することにする。

CCTVは、苦渋に耐えながら習近平の高飛車な日中関係に関するお説教をひたすら聞いている安倍首相の表情をクロースアップし続けたし、世耕・経済産業大臣などは、苦渋というより「不快だ!」という思いが露わになっていた。眉をひそめた世耕大臣の顔に焦点を当てるCCTVのカメラのいやらしさ。他の日本側参加者も一様に不快感が出ているし、中国側から見れば「さあ、どうだ!参ったか!」という意思が明確に透けて見える。

北京における全ての行程を通して、安倍首相の嬉しそうな顔は、一度もなかった。

あれだけ前宣伝では、安倍首相を礼賛せんばかりに報道したCCTVは、今度はいきなり「苦渋の表情」へと貶める。

それは、日本から中国への「朝貢外交」なのだという印象を与えるのに十分な効果を発揮した。

巧妙な計算――なぜ習近平は26日午前に南部戦区の視察に行ったのか?

10月26日午前、習近平は南部戦区を視察して南シナ海を監視すべく、「いつでもすぐに戦えるように、指揮能力を高めよ!」と檄を飛ばした。

CCTVは、ニュースの順番として、まず習近平が南部戦区で南シナ海に対する戦闘準備のシミュレーションなどを視察する勇ましい姿と声を報道してから、安倍首相との対談の模様に入っている。

えっ?これは――!

ハッとしてネットに当たってみると、案の定、新華網が第一面のトップに習近平の南部戦区視察を大きく掲載して、その脇に安倍首相との会談を小さく載せるという、巧妙な手段に出ているのを発見した。

10月27日の新華毎日電訊の紙面のレイアウトをご覧いただきたい。

なんという、計算し尽くされた手法ではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米7月雇用7.3万人増、予想以上に伸び鈍化 過去2

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中