高市首相を動かした「円安リスク」...日銀利上げ容認の舞台裏
写真は高市早苗首相。11月25日、東京で撮影。REUTERS/Issei Kato
日銀が18、19日の金融政策決定会合に向けて利上げのシグナルを強める中、焦点の一つだった高市早苗政権の姿勢が容認に傾いた。複数の政府関係者はその理由に、高市氏の「変化」を挙げる。自身が主導してまとめた経済対策に対する金融市場の反応、とりわけ為替の動向に気をもむようになったと同関係者らは言う。一方、高市氏はマクロ経済政策の「最終責任は政府にある」と強調してきたことから、追加利上げが経済や家計にマイナスの影響をもたらした場合、どう自らの言葉で説明するかに注目が集まる。
高市氏の危機感と変化
日銀が判断すればいい──。政府関係者の一人は利上げをめぐる足元の政権内の空気をこう表現する。高市氏が就任当初に「最終責任」発言をしたことで、早期の追加利上げは難しいと市場や日銀ウォッチャーは受け止めたが、状況は変わった。片山さつき財務相は5日の記者会見で、「植田(和男)総裁と私との間でのコミュニケーションはいろんな意味で非常にいいと思っている。具体的な金融政策の実務運営は日本銀行にお任せしている」と語った。
高市氏は就任後、経済財政諮問会議の民間議員に大胆な金融緩和と積極財政を提唱するリフレ派の論客を起用するなど、自身の持論である「責任ある積極財政」に向けた足場を固めようとした。ただ、この姿勢はマーケットから円安容認と受け止められ、就任時対ドル151円ほどだった円相場は1カ月で一時157円まで下落。財政不安を見越した債券安も進んだ。
「海外の市場関係者はリフレ派の話すことを真に受けてしまう。グローバル金融市場で高市政権そのものがリスク要因となってしまっている」と、前出と別の政府関係者は言う。
高市氏には誤算だった。もともと勉強熱心で「何事も自分で理解しないと気が済まないタイプ」(内閣官房関係者)と言われる高市氏だ。足下の市場動向についてたびたび省庁から説明を受けるうちに、対応が必要だとの思いを強くしたとみられる。前出の経済官庁関係者は「11月18日に日銀の植田和男総裁と会談したときには、すでに高市氏は現状への強い危機感を抱いていた」と話す。
「『財政をもっと噴かせろ』という声はいまや政府内で少数になりつつある」。前出の政府関係者はこう話す。来年度当初予算に向けた首相官邸での打ち合わせでも高市氏から「無理な要求」は出なくなったといい、「マーケットの動向を相当気にしているようだ」と、この関係者は解説する。
政府内では、こうした高市氏の「変化」が日銀の利上げを容認する姿勢につながったとの見方が大勢だ。日銀は11月18日に植田総裁が高市氏と会談し以降、利上げに前向きな情報発信をし始めた。12月9、10日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて市場が大きく荒れなければ利上げに動く公算が高く、市場が織り込む12月の利上げ確率は9割まで上昇している。
諮問会議の民間議員を務める第一生命経済研究所首席エコノミストの永浜利広氏は3日、ロイターの電話取材に「米国の金融政策を受けた後も円安が続くのであれば(12月利上げは)仕方ない。現在の円安状況が変わらないのであれば高市首相も容認する可能性がある」と語った。
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