最新記事
日本政治

高市首相は「首斬り」投稿にどう対応すべきだったのか...元外交官が読み解く

2025年11月18日(火)08時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)
Xの炎上を受けて薛剣総領事は問題の投稿を削除したが Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters Connect

Xの炎上を受けて薛剣総領事は問題の投稿を削除したが Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters Connect

<「汚い首を斬ってやる」──外交官が使う言葉とは思えない。品位を欠いた薛剣総領事の投稿は、中国の国家イメージすら傷つける愚行だ。だが、だからといって首相が真っ向から応じれば、日本も泥仕合に引きずり込まれる。ここで問われるのは、暴言を「料理」する首相のしたたかさである>


▼目次
双方のメンツを保つウラ収拾法

中国の薛剣(シュエ・チエン)駐大阪総領事は今月8日、日本の高市首相を指して、X(旧ツイッター)に「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」と投稿した。首相が7日の衆院予算委員会で、台湾が武力攻撃を受けた場合は、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得る、と述べたのにかみついたものだ。

「汚い首」......国会答弁の準備で前夜風呂にも入れていないとでも思ったのかもしれないが、同じ外交官だった筆者には下劣そのものに聞こえる。首相の発言を批判するのは彼の勝手だが、この言い方は中国、そして中国人全体の品格を落としてしまう。「中国はこんな人物を外交官にしているのか。中国では、ああいう非文明的な物の言い方がまだ残っているのか」と思う。

こういうときに首相は、道徳観を振りかざして「毅然たる対応」をするべきか? そうは思わない。一国の首相が、たかが一総領事と同格で議論を始めることはない。では、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」扱いで国外退去を求めるか? そうしてもいいが、その後の情勢はどう展開するか、それは日本にとって有利かどうか。薛総領事を追い出せば、中国は日本の外交官の退去を求めてくるだろう。日本の外交官には数年間の国費での外国留学など、元手がかかっている。同じ能力・経験を持つ「替え」はそうそういないし、今のポストからすぐ剝がせるわけでもない。

こういうとき、口先で飛びかかってきた相手には、同じく口先で回復不能なダメージを与えればいいのだ。例えば「私は毎日風呂で首をきれいに洗っています。中国人の方々はまさか全員、このような言い方をされるのでしょうか? 私はこの前、釜山で習近平(シー・チンピン)国家主席とお会いして、両国はこれからも戦略的互恵関係を包括的に推進していくことで合意しています。薛総領事はこれが気に入らなかったのでしょう。私はこの合意から外れるつもりはなく、これからの発言もこの合意にのっとるものになるようにする所存です」という一文を、Xなどに投稿する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中