ニュース速報
ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政」に高まる警戒 カーブにスティープ化圧力

2025年11月18日(火)14時39分

 11月18日、円債市場では超長期債を中心に金利上昇圧力の強まりが意識されている。補正予算規模への過度な懸念は出ていないが、高市早苗政権の掲げる「責任ある積極財政」によって先行きの財政規律の緩みへの警戒感は根強い。写真は2022年9月撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)

Mariko Sakaguchi

[東京 18日 ロイター] - 円債市場では超長期債を中心に金利上昇圧力の強まりが意識されている。補正予算規模への過度な懸念は出ていないが、高市早苗政権の掲げる「責任ある積極財政」によって先行きの財政規律の緩みへの警戒感は根強い。足元ではイールドカーブのスティープニングが改めて意識されており、長期金利は1.8%が視野に入ってきたとの見方が出ている。

<財政信認の揺らぎ映すスティープ化圧力>

現物市場では新発10年債利回りは一時1.755%と2008年6月以来の高水準を更新。新発20年債は一時2.810%と1999年7月以来の高水準、新発40年債は一時3.680%と過去最高水準を更新した。

先週から円債市場では、中期と超長期ゾーンを中心に金利上昇となった一方、両ゾーンに挟まれる10年債は1.7%付近で押し目買いに支えられて下げ渋っていた。その結果、イールドカーブは「U字」型となり、不自然なゆがみが生じていた。

超長期ゾーンは財政悪化懸念、中期ゾーンは日銀の利上げ観測と国債増発の対象との思惑から、それぞれ手控えムードが広がっていたことが背景にあったが、10年債利回りが1.7%を超えたことで、カーブの形状に再び変化がみられてきている。

経済対策に向けた補正予算規模への警戒感が超長期金利の上昇圧力となってきた経緯があり、週末に相次いだ事前報道を受けて、ひとまず想定内の規模との受け止めが優勢となり、いったん「出尽くし」となってもおかしくなかった。

ところが、超長期ゾーンを中心に金利上昇圧力は継続している。補正予算に関する事前報道後、国債増発の対象として意識されやすいはずの短中期ゾーンの売り圧力は相対的に強まっておらず「需給よりも財政の信認が材料視されるなど構造的な変化が起こっている」と、三井住友トラスト・アセットマネジメントのシニアストラテジスト、稲留克俊氏はみる。

ニッセイ基礎研究所の金融調査室長、福本勇樹氏は「長期的にみれば(増発対象の)国債の発行年限が少しずつ長くなっていくのではないかという懸念が長期金利の上昇圧力につながっているのではないか」と分析する。

<早期の日銀利上げ観測はじわり後退>

日銀の利上げを巡る思惑も揺らぎが見え始めている。首相による基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)目標見直し表明や、政府が経済財政諮問会議の民間議員に、財政出動に積極的な「リフレ派」の人物を指名したことをきっかけに、市場では財政も金融政策も緩和を継続するという「高圧経済」を目指すとの観測が広がっている。

「経済対策が大きくなればなるほど、それだけ高市政権が経済を重視しているということだ。(財政拡大による)金利上昇圧力がかかる中で、日銀が利上げを実施するのは難しいのではないか」と、SBI証券のチーフ債券ストラテジスト、道家映二氏は指摘する。

東短リサーチと東短ICAPによるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)気配中央値によると、11月18日時点の12月開催の日銀金融政策決定会合での利上げ織り込み比率は31%に低下している。

17日発表の7─9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質(季節調整値)は6四半期ぶりのマイナス成長となった。「利上げしにくくなる要因が増えた。一方、積極的な財政政策が必要との声が政府サイドからより大きくなる可能性がある」(国内銀のエコノミスト)との声が出ている。

<デュレーション短期化ニーズがスティープ化後押し>

21日の閣議決定までに今年度の補正予算規模が膨らむとの警戒感はくすぶっている。「1兆円でも規模が膨らめば膨らむほど、イールドカーブにスティープニング圧力がかかる」(国内証券ストラテジスト)との声が出ている。

超長期債の買い手不在の状況は続いている。日銀は今後、国債買い入れの減額を進めるほか、規制対応が一巡した生保勢による超長期債ニーズも後退している。

一方、中期ゾーンの利回り上昇ピッチは緩やかにとどまっている。0.75%までの日銀の利上げをすでに織り込んでいる利回り水準面から買いが入っているほか、財政拡張への警戒感から、「投資家によるデュレーション短期化の動きが活発化しやすい」(ニッセイ基礎研の福本氏)ためだ。

SBI証券の道家氏は、長期的にはイールドカーブはスティープニング圧力がかかりやすいとし「日銀が利上げを実施しなかったとしても、超長期債の金利上昇に引っ張られる形で、長期金利は1.75ー1.80%付近まで上昇余地がある」と予想する。

足元の新発30年債利回りは10月以来の高水準である3.3%台に上昇している。三井住友TAMの稲留氏は「年内に3.5%まで上昇すれば、長期金利は1.8%を超えてくる可能性がある」との見方を示した。

(坂口茉莉子 編集:平田紀之 内田慎一)

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国の世界的な融資活動、最大の受け手は米国=米大学

ビジネス

S&P、丸紅を「A─」に格上げ アウトルックは安定

ワールド

中国、米国産大豆を買い付け 米中首脳会談受け

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、一時9カ月半ぶり高値
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中