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もうアメリカには頼れない――NATO「安心神話」の終わりと欧州防衛の現実【note限定公開記事】

Europe Is on Its Own Now

2025年10月2日(木)15時05分
クリスチャン・カリル(本誌米国版元モスクワ支局長)
ウクライナと米国の国旗を背に向き合うゼレンスキー大統領とトランプ米大統領

国連総会に合わせ9月23日に会談したウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ米大統領 SVEN SIMONーTHE PRESIDENTIAL OFFI CE OF UKRAINEーREUTERS

<「アメリカは同盟国を必ず守る」――その前提が動いた。続くロシアの挑発を前に、欧州は現実的な選択を迫られている>


▼目次
1.アメリカも支援はする、ただし条件付き
2.トランプ発言が砕いた、同盟の甘い期待
3.宣戦布告のない戦争

1.アメリカも支援はする、ただし条件付き

ついにドナルド・トランプも目覚めたのか?

去る9月23日、この第47代アメリカ大統領は自身のSNSに「私の思うに、EUの支援があればウクライナは本来の国土を全て奪還できる立場にある」と書き込み、ロシアを「張り子の虎」と呼んで切り捨てた(ただしロシア側は、虎は中国の代名詞であり「うちは本物の熊だ」と言い返した)。

同じ日、ニューヨークでの記者会見で、NATOの加盟国は領空侵犯したロシア軍機を撃墜すべきだと思うかと問われると、トランプは「そう思う」と答えた。この発言も強烈だった。

本当に心変わりした可能性もあるが、トランプ節の常として、ホラにはウラがあるとみたほうがいい。今回のSNS投稿も次の一文で終わっている。

「わが国は今後もNATOに武器を提供し続け、NATOはそれを好きなように使える。諸君、頑張れ!」と。

とんでもない言い草だ。これだとNATOは、アメリカが積極的かつ主導的な役割を果たすはずの軍事同盟ではなく、米国製品の単なる顧客に成り下がってしまう。

最後の「諸君、頑張れ!」は「お気を付けて。いい戦争でありますように!」とも読める。まるで惜別の辞だ。

その記者会見では、先の質問をした記者が、ロシア軍機を撃墜した同盟諸国への支援についても尋ねた。

「その場合、アメリカは何らかの形で支援するのか?」

するとトランプは「状況次第」と答えただけで、あとはNATO諸国の防衛予算を激増させた自分の手柄を自慢するばかりだった。

newsweekjp20251002103954.jpg

ロシアの空軍機は今後も欧州各国の空を脅かす? AP/AFLO

この「状況次第」は何を意味するか。

NATOは加盟32カ国のうち1国でも攻撃されたら共同で防衛するという大原則(いわゆる集団防衛)で設立された軍事同盟だ。

もしも加盟国の1つ、しかも最強の国が集団防衛への参加に勝手な条件を付けたら、もう同盟は成り立たない。

トランプはロシアに対する制裁の発動にも条件を付け、欧州諸国がロシア産エネルギーの購入をやめ、中国に50~100%の関税を課すよう求めた。

これぞトランプ流。助けてやるぞ、ただしその前にこちらの要求をのめ。全ては「状況次第」だ......。

2.トランプ発言が砕いた、同盟の甘い期待

これまで欧州諸国の指導者たちは、たとえトランプがとっぴな発言をしても、決してアメリカは欧州を見捨てないと自らに言い聞かせてきた。だが、その幻想はついに打ち砕かれた。

◇ ◇ ◇

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【note限定公開記事】もうアメリカには頼れない――NATO「安心神話」の終わりと欧州防衛の現実


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