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太平洋戦争

米軍が長崎への原爆投下を急いだ理由と、幻の「飢餓作戦」「本土決戦」を在日米国人学者が探る

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2025年8月20日(水)15時45分
M・G・シェフタル(静岡大学教授)

だがそれでも1発目と同様、2発目の原爆でも日本の指導部がアメリカ側の要求を受け入れない可能性はあった。その場合、8月19〜21日頃に3発目の原爆が用意できても、アメリカには原爆が無数にあるというはったり自体が無意味になる(このはったりに一度でも効力があったとすればの話だが)。

軍事的な慎重さを重んじるアメリカは日本側のプロパガンダを一蹴するのに躊躇していた。前年のサイパン陥落以降、日本は大々的に、自国には国民という究極の戦略兵器があると豪語し、「本土決戦」になれば国民は降伏の恥辱を受けるより集団で玉砕してでも祖国を守る覚悟があると主張してきた。


米軍は45年11月に九州上陸作戦を計画していたが、この時点では「一億火の玉」「総玉砕」といった日本のスローガンが国民の真の決意表明なのか、はったりによるプロパガンダにすぎないのか確信できずにいた。

はったりと決意の区別がつきにくい駆け引きを行っていたのはアメリカだけではなかったのだ。日本もまた、自国本土への侵攻を計画するアメリカの脳裏に破滅的な惨状を思い描かせる戦略を取っていた。本土へ地上侵攻すれば、連合軍側は沖縄戦で経験した激戦(連合軍側に約5万人の死傷者を出し、民間人はその倍近くが命を落としたとされる)に匹敵する凄惨な、しかも桁違いの犠牲を覚悟せねばならないぞ、と。

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