最新記事
北朝鮮

北朝鮮が、自国の「闇」を描いた異色の新作ドラマを放送...一体なぜ? 地方の困窮や官僚の腐敗も

TV Drama Shows North Koreans State's Failings for First Time

2025年7月30日(水)18時45分
マイカ・マッカートニー

社会問題だけでなく、ラブロマンス要素も

今作には、困窮や腐敗との戦いというメインストーリーの他に、ラブロマンスというサブストーリーも存在する。

従来の北朝鮮ドラマでは、感情表現はイデオロギー的な忠誠心と結びつけられていたが、今作ではそれらとは一線を画した恋愛や失恋といった描写がある。

主人公の異動が妻との間に緊張をもたらすといった家族内の対立も描かれる他、母親が息子の交際相手(下位階層の出身)に別れるよう金を渡すといった社会階層の格差も取り上げられている。

一方で、プロパガンダ要素も依然残っている。スマートフォンの使用、新築の住宅、豊富な食料といったシーンが頻繁に登場するが、大多数の北朝鮮国民が直面している厳しい現実とは全く異なる。


韓国・建国大学で北朝鮮文化を研究する全永善(チョン・ヨンスン)は、ウォール・ストリート・ジャーナルに対し、この作品は「刺激的」と指摘。金正恩がより魅力的な国産コンテンツ作りや、北朝鮮国民の生活向上の約束を果たそうと邁進していることを反映していると語った (実際、このドラマは、2024年に発生した豪雨災害の後に製作されている。鴨緑江流域で発生した豪雨災害は地滑りも誘発し、1000人以上が死亡または行方不明となったほか、数千人が避難を余儀なくされた)。

他の専門家らも、このドラマが北朝鮮政権のメディア戦略の転換を示していると分析している。

調査会社のストラテジー・リスクスを創設したアイザック・ストーン・フィッシュCEOは、X(旧ツイッター)に「北朝鮮の視聴者が、自国の問題を描いたテレビ番組を見るのは今回が初めてだ。これは巨大な変化だ」と投稿した。

また、韓国・東西大学のクリス・マンデー准教授は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「党の失敗や個人の失敗がここまで赤裸々に描かれたのは、これまで一度もなかった」と語った。

このドラマは、北朝鮮のメディアや社会の変革の嚆矢となるのだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界

ワールド

トランプ氏、首都ワシントンに国家非常事態宣言と表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中