韓国・李在明大統領の対日政策転換 石破首相との初会談から読み解く現実主義外交とは
反日政策を実施しない理由
1. 反日運動のテーマ不在
李在明政権が反日政策を行わない理由は、まずはテーマがないことだ。これまで慰安婦支援を標榜する団体が反日運動を先導し、政府が支援する場面が見られたが、正義記憶連帯(旧韓国挺身隊問題対策協議会)の尹美香代表による支援金流用疑惑の表面化以降、慰安婦支援団体に対する国民の不信感が広がった。これにより慰安婦問題を掲げて反日を先導できる団体がなくなったのだ。
徴用工問題も韓国内の関心は極めて薄く、原告の大半が遺族ということもあって、反日機運を高める材料とはなりえない。韓国の裁判所は日本企業に賠償金の支払い命令を下したが、応じる日本企業は皆無で資産の差し押さえと売却も実行できていない。韓国の裁判所が差し押さえ可能な資産は大半が提携企業の相互持株であり、売却すると韓国企業が損害を被ることになるからだ。李在明政権は、尹錫悦前政権が発表した韓国政府による賠償金の肩代わりを続ける方針だ。
竹島問題も韓国が実効支配している現状から考えて、韓国がこれを問題化して得る実利はない。
2. 中国との関係変化
2つ目は中国との関係だ。貿易依存度が高い韓国は外国との関係なくして国民経済を維持できない。反日政権は中国との関係を強調してきた。日韓通貨スワップが終了した時、当時の政権は中国とのスワップがあるから問題ないと豪語したが、中国発の新型コロナ感染症が拡散して以降、韓国の国民には嫌中感情が広がっている。
経済面でも韓国は2013年、対中貿易で628億ドルの黒字を計上するなど中国は最大の貿易黒字国だったが、2023年の対中貿易は180億ドルの赤字に転落。回復する見込みもなく、中国の顔色を伺う必要性が薄れている。
3. 日韓経済交流の深化
そして李在明政権が反日政策を実施しない最大の要因は日韓経済交流の深化である。尹錫悦政権の3年間に日本関連で収益を得る企業や個人が増加した。
2024年の訪日韓国人と訪韓日本人を合わせた日韓往来は1200万人を超え、今年も増加傾向が続いているが、その多くが韓国の航空会社を利用しており、韓国航空業界にとって日本路線は重要な収益源となっている。
実際、ノージャパンが拡散した2019年、韓国格安航空会社LCCが窮地に陥り、そのうちのひとつ、イースター航空が経営破綻した。対日外交を反日に転じることは第2、第3のイースター航空が現れるなど韓国経済が萎縮することを意味するのだ。
日本関連ビジネスで生計を立てる企業や個人は有権者でもある。反日政策を推進すると李在明大統領への反発が生まれるだけでなく、来年の統一地方選への影響も避けられない。反日は与党「共に民主党」内の賛同を得られないのだ。
現実主義的外交路線の背景
ある共に民主党支持者は李在明大統領を利益を追求する現実派と評価する。
かつて文在寅政権が推進した親北政策に金正恩が応じた理由の一つに米国との橋渡し役としての期待があったことは明白だ。北朝鮮はバイデン氏が有力な大統領候補として浮上すると反韓に転じている。中国も同様で、習近平は何度も訪韓を匂わせながらも文在寅政権下で一度も韓国を訪ねていない。文在寅政権にはバイデン陣営とのパイプがなかったのだ。
親北や親中で韓国が得る利は小さく、李在明が掲げるコリア・ファーストにはつながらない。
良好な対日政策、いつまで続く?
もっとも李在明大統領の友好的な対日政策が永続するとは限らない。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は就任当初、「過去の足かせに囚われているわけにはいかない」と述べ、両国首脳が相互に相手国を訪問するシャトル外交を行うことで小泉純一郎首相と合意したが、その後、反日に舵を切り、シャトル外交もわずか2年で中断した。続く李明博(イ・ミョンバク)元大統領も就任と同時にシャトル外交を再開するなど良好な関係を築いたが、支持率が低下した2012年8月、韓国大統領としてはじめて竹島に上陸。以降、反日姿勢に転じている。
こうした過去の政権の動きを踏まえると李在明大統領の対日政策も少なくとも来年の統一地方選までは現状通りと考えられるが、いつ反日に転じるかわからない。
経済交流や民間交流が成熟すれば、反日が拡散する可能性は小さくなる。ソウル在住の筆者ら日韓のビジネスに携わる関係者は韓国政府が反日に転ずる前に、日韓経済を後戻りできない水準まで深化させる必要があると考えている。